英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は北朝鮮の話題です。金正日総書記の死去はアジア地域、ひいては世界全体のあり方に影響を与えかねない変化なので、どの国のメディアも北朝鮮の動きを速報すると共に、それに対する各国の反応を伝えました。日本メディアが中国や韓国、アメリカの動きを伝えたように、英語メディアは北朝鮮の隣国・日本の動きを速報したのです。鏡の中の鏡をのぞき込むような感じで、そこからアジアの未来像がぼんやり幻のように見えてくる気がしないでもありません。(gooニュース 加藤祐子)

日本以外のことで日本の総理に注目

 年の瀬ともなるとその年を振り返りたくなるのは洋の東西を問わずの人情で、たとえば英BBCはこちらで「色々なことがあった1年」にBBCニュースにアクセスが多かった出来事を並べています(当然ながら「Japan earthquake」が入っています)。Googleは世界中で何がどう検索されたかをもとに優れた動画をまとめています(日本からは津波の映像と、なでしこジャパンが入っています)。

 1年を振り返るのには色々な切り口がありますが、近年における国際政治・国際システムの激動という意味では今年は、1989-90年(ベルリンの壁崩壊、ドイツ再統一、ソ連崩壊)、そして2001年(米同時多発テロ)に続く年だったかと思います(つまり冷戦終結後はほぼ10年周期で激動年が来ているのではないかと)。

 今年は日本にとってはもちろん巨大なる喪失の年だったのですが、世界を見渡すと、ここ十数年来(人によっては数十年来)国際システムの不安定要因となっていた独裁者たちが次々と姿を消した年でもありました。

「○○担当」の報道記者にとって「これだけは絶対に抜かれるな」というネタはつきもので(たとえば事件が時効になる前の大阪府警担当にとってグリコ森永事件の犯人逮捕)、北朝鮮担当にとっては金正日総書記の死がその一つだったと聞きます。今回はどの社の担当者もどの国の担当者も「抜かれ」は免れたようですが、逆に言えばそれだけ北朝鮮の情報統制が行き届いているという意味でもありそうです。

 アジア地域、ひいては世界の安定にとって大きな意味をもつ金総書記の死が19日正午に朝鮮中央放送によって伝えられるや、各国メディアは北朝鮮の動向だけでなく(北朝鮮内部の情報がなかなか分からないこともあって)周辺国の対応を速報しました。

 なにせ朝鮮半島は、今や東アジアにおける最大の不安定要因。アジアの火薬庫です。普段は基本的に冷静な英『フィナンシャル・タイムズ』、大衆紙などとは異なる沈着冷静の砦(であってほしい)『FT』でさえ、もし北朝鮮の権力移譲が安定的に行われないなら、最悪の「シナリオは半島を遙かに超えて影響を及ぼす。北朝鮮が初歩的な核兵器をいくつか持っているというだけではない。100万人強の北朝鮮軍になにがしかの動揺が起きれば、アメリカと中国と日本という世界最大の経済大国を巻き込んだ消耗戦が繰り広げられるかもしれないのだ」と警告せずにはいられない事態です。

 そうした中で私はしばらくBBCのワールドニュースとCNNインターナショナルを交互に見ていたのですが、北朝鮮から出てくる情報がほとんどない中で、日本政府が何をどうした、日本の総理大臣が何を言ったかが、(日本そのものの話題ではないニュースでは珍しく)さかんに注目されていました。

 たとえば英BBCは野田佳彦総理が急ぎ安全保障会議を開いたことや、ホワイトハウス報道官が韓国・日本と緊密に連絡をとりあっていると明らかにしたことを報道。BBCは野田首相が記者団に「朝鮮半島の平和と安定に悪影響を及ぼさないようにしなければいけない。1つは今後の動向について情報収集体制を強化すること、それからアメリカ、韓国、中国など関係国と密に連携すること、3つ目は不測の事態に備えて万全の態勢をとること。この3つの指示を徹底しているところだ」と語った内容も伝えました。

 仏AFP通信も野田首相が街頭演説の予定を取りやめ安全保障会議を開いたことや、「アメリカ、韓国、中国など関係国と密に連携する」よう指示したこと伝えています。米フォックスニュースも、オバマ米大統領が19日夜に韓国の李明博大統領と電話会談したことに加え、政府として日本と連絡をとりあっていると伝えました。

 金総書記の訃報から一夜明けた20日に行われた日米首脳の電話会談については、たとえばAP通信が、「オバマと日本の首相、同盟国へのアメリカのコミットメントと北朝鮮情勢を協議」という記事を配信。「オバマ大統領は日本を含むアジアの同盟国に対するアメリカのコミットメントを強調しようとしている」という書き出しです。「commitment」は人間関係や国同士の関係などで多用される英語ですが日本語にしにくい。「誠心誠意、誠実に真摯に関わっていく意志」というような意味です。

 記事にも引用されているホワイトハウスの発表によると、オバマ大統領と野田首相は「金正日死去を受けての朝鮮半島情勢を協議。大統領は、日本を含む親しい同盟国の防衛に対するアメリカのコミットメントを強調した。大統領はさらに、朝鮮半島と周辺地域の安定維持を重視していると伝えた。両首脳は、アメリカと日本が事態を慎重に注視し連絡を取り合うと合意した」ということです。

 これに先立つ日米外相会談については、たとえばAFP通信が、「ヒラリー・クリントン国務長官は玄葉外相と会談し、飢えながらも核武装している隣国について疑問符が飛び交う中、同盟国の日本および韓国と緊密に連携していくと述べた。『北朝鮮の平和的かつ安定的な権力移行、および地域の平和と安定の確保は日米にとって共通の利益です』とクリントンは話した。(中略)玄葉はアメリカの立場に同意し、日本にとって最大の関心事である拉致被害者(1970年代から80年代にかけてスパイ訓練のために北朝鮮に拉致された日本国民たち)の行く末について更なる努力を呼びかけた」と書いています(敬称略なのは英語記事の常です)。

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