A課長はびっくりした。

「いいえ……、彼は新入りですからまだ営業担当はないですし、夜の7時には仕事は終わっているはずです」
「そうか。おかしいな。ちょっと調べてみてくれないか?」

 A課長は総務課からBの出勤簿を取り寄せ、内容を確認した。

「○月○日、退出は23時、○月□日はなんと午前0時だと……?何だ、この出勤簿は……!」

 翌日、早速Bに事情を聞いた。

「B、先月の出勤簿の件だけど、残業時間が80時間もある。他の課員は休日出勤込みで月40時間ぐらいだよ。これはどういうことだ?」

 Bは当然のごとく答えた。

「え??ちゃんと仕事していましたよ。課長のお相手をしていたじゃないですか!」
「なにっ?プライベートな飲み会は残業ではないぞ!」
「何言ってるんですか?『これは俺の命令だ!』って言って、強制的に誘ったじゃないですか!」
「これは口グセのようなものだ。とにかく飲み会に対しての残業代は払えない」
「いえ!残業代はちゃんともらいます。支払いがなかったら課長の責任です。労働基準監督署に訴えてやりますから!」

 その様子に他の社員が続々と集まってきた。そして口々に話し始めた。

「飲み会に参加したら残業代がもらえるんだって!?それなら僕、今年の新年会参加します」
「私も参加します」
「俺もお願いします」

 先輩社員が「よさないか。飲み会で残業代は出ないぞ。勘違いするな」とたしなめても、
「ずるーい!ずるーい!B君だけずるーい!」と大合唱となり、その場は騒然としてしまった。

社労士のアドバイスを受け、
課長はBをどう説得するか?

 困ったA課長は、大学時代の同僚でもあるD社労士を訪ね、Bに関するこれまでのいきさつを話し、アドバイスを受けることにした。

「Bに残業代は出ないっていくら話をしても一歩も引かないんだ。C支店長からは『今回のことは君が解決しろ』って言われているし……。困ったよ」
「うーん……、Bさんは『これは俺の命令だ!飲みに行くぞ!』ということを仕事上必要な時間だと思ったのかな?」
「それは違うだろ。だって俺、Bだけじゃなく、他の若手部下にも同じこと言ってるもん。そんなのノリだよ。だけど誰も来ない。アハハハ……(笑)」
「じゃあ、断っても構わない雰囲気なわけだ。これじゃ業務命令とは言えないな。それで、飲み会に来ない若手部下が不利になるようなことはあるの?例えば人事評価が下がるとか……」
「あるわけないだろう。ちゃんと仕事ぶりで人事評価しているよ」
「Bさんと飲みに行った時は、仕事の話ばかりしていたの?」
「そりゃ、仕事の話もするけど、関係ないバカ話もたくさんしたさ。カラオケもしたし、キャバクラにも連れて行った」