残業ゼロにしたら、社員の仕事が効率化し、ミスも減少!

残業をゼロにするとき、私の頭の中には「今の仕事にはムダもあるはず。勤務時間を短くすることが効率化につながるかもしれない」という期待もありました。
残業ありきで仕事をするより、定時で帰るという前提のもとで仕事をすれば、その時間内に仕事を終えられるよう社員が効率よく動くようになるのではないかと考えたわけです。

この期待は、現実のものとなりました。
社員たちは、時間を有効に使い、常に効率化を考えて作業するように変化していったのです。機械を動かす前の段取りも、以前なら1時間ほどはかかっていたものが、たった5分で終える社員がいてびっくりさせられたほどです。

また、「指示待ち」もどんどん減りました。
それまでは、自分でチェックしてOKだと判断できる場面でも、いちいち私の確認をとらなければ仕事を先に進めないケースがたくさんありました。もちろん、私のチェックを待つ間は時間のムダになります。
残業時間をゼロにすると、それまで指示待ちをしていたような場面でも、社員が自分で的確に判断を下して作業を先に進めていくことが増えていきました。

他にも、意外な効用として、ミスが少なくなったことが挙げられます。
ワイヤーカット加工では、図面どおりに仕上がらないというミスがどうしても発生します。しかし、残業をゼロにしてからというもの、年間のミスの件数が半分以下に激減したのです。
これは、社員がしっかり休息をとれており集中して仕事に臨めていることや、自主性が高まったことによる結果ではないかと思っています。

「残業ゼロ」は吉原精工でなければできないのか?

吉原精工の「残業ゼロ」がニュースになり、ネットで話題になったとき、
「製造業だからできたことで、創造性を必要とされる職種には応用できない」
「これは社員7人の小さい組織だからできたのではないか」
といった声が上がっていました。

しかし、本当にそうでしょうか?

「創造性が必要な仕事では残業ゼロは無理」という声には、まるで工場で働く社員にはクリエイティビティが必要ないかのようなニュアンスがあります。おそらく、ワイヤーカット加工や工場の仕事を単純作業だと勘違いしているのでしょう。

ワイヤーカット加工も段取りの工夫一つで効率性が大きく変わる仕事です。金属の塊から、いかに少ない工数で加工を終えて図面どおりのものを切り出すか――アプローチの方法はさまざまであり、まさに発想力が求められる仕事といえます。
クリエイティブな発想は、会議室や会社のデスクだけで生まれるものではないはずです。通勤中に、あるいはお風呂に入っているときやテレビのCMの時間などに、よいアイデアが浮かぶといったこともあるでしょう。

「組織の規模が大きいと残業をゼロにはできない」というのも、工夫次第ではないのかと思います。
吉原精工も長年、規模の大きな会社とお付き合いがあります。その経験からわかるのは、いくら大企業といっても組織の末端は少ない人数のグループで成立しており、その集合体がピラミッド型に積み上がっているということ。グループ単位で考えれば吉原精工のやり方が適用できる部分もあるはずです。

吉原精工が残業を減らしてきた過程での大きなポイントは、工場の機械の稼働率を下げずに社員の労働時間を減らしたことにあります。これは、社員を複数のグループに分け、勤務時間をずらすことによって実現しました。
たとえば顧客対応がある仕事の場合、「お客様が遅くまで働いているのに残業ゼロにはできない」というなら、社員を2つのグループに分けて勤務時間をずらすことで対応できる可能性がありそうです。一つのグループは朝から夕方まで、もう一つのグループは昼から夜までの業務とすれば、会社の営業時間は長くすることができます。

そもそも、勤務時間を固定して考えるのも、もったいない話です。
通勤のピーク時を避ける「時差通勤」なども取り入れ、柔軟に各個人の勤務時間を動かせるようにすれば、会社の営業時間は変えることなく社員の自由度、満足度を高めることも可能でしょう。

こういった柔軟な勤務時間を取り入れるには、グループ内での情報共有が必要です。
「一人だけがわかっていて、その人がいないと困ってしまうような属人的な仕事」はなくさなければなりません。
情報共有さえしておけば、たとえば早い時間に帰宅したメンバーに問い合わせや連絡が入った場合、遅い時間に働いているグループのメンバーが対応できます。
もちろん、たまには「どうしても急いで担当者が対応しなければ」という場面もあるかもしれません。それも、帰宅した社員に携帯電話で連絡するなり、方法はいくらでもあります。「帰宅後、まれに仕事の連絡が来ることもある」という程度なら、常に残業するよりずっといいのではないでしょうか。