KDDI(au)は4月から中小企業向けの新サービスを始める。中小企業の通信サービスを割安で包括的に担う初めての試みだ。

 その名も「スマートバリュー for Business」。スマートフォンの利用拡大を図り、約30~40万社の中小企業を対象にする。

 新サービスを受けるには、まずスマートフォンを利用することが前提となる。

 さらに、光回線を利用したIP電話やインターネットなどの固定通信サービスと、端末側ではなくサーバー側で情報を管理するクラウドサービスを同じ法人名義で申し込む必要がある。

 こうして、まとめて頼めば全体で約3割安くなるというのだ。

 料金面では、スマホ1台の利用料金が2年間、月額1480円割り引かれる。加えて月額1500円以上はかかるクラウドサービスが月額390円で使えるようになる。

 たとえば、100人の会社をモデルとすれば通常、月額約27万円かかる料金が3割ダウンの約20万円に抑えられるという。

 サービス面も充実させている。

 一つのIDにつき仕事の効率化につながる5つのアプリがつく。10GBのデータ容量で資料やスケジュール、名刺の管理ができるほか、メールやセキュリティ対策も万全だ。

 当然、従来のサービスも利用できるため、固定電話からau携帯にかける通話料金が半額になる。

 何といってもKDDIのサポートが受けられることが大きい。トラブルがあっても、電話一本で相談できる窓口があるため、中小企業でも安心というわけだ。

 KDDIクラウドサービス企画開発部サービス戦略グループの藤原昌也課長は、「スマホで仕事のスタイルが変わることを伝えたい」と話す。

 しかしながらじつはこれ、単なる新サービスではない。法人ではシェア3位に甘んじていたKDDIの起死回生となりそうなのだ。

 というのも、NTTは東西両社が光回線に注力してきたし、ソフトバンクはiPadやiPhoneなどの展開で法人に強く、KDDIは後塵を排していた。

 こうした2社に対抗すべく、光回線の固定通信サービスとau端末を利用した携帯電話サービスとを「融合」させて、割安にする戦略に打って出たのだ。

 これはNTTグループにはできない技。なぜなら、固定と携帯の「融合」が法的に規制されており、ドコモの携帯と固定の「フレッツ光」がセット販売できない。そもそも光回線のインフラを持たずに借りているソフトバンクはなおさらできない。

 背景には光回線の普及とスマホの進化によって、KDDIが巻き返しを図る土壌が整いつつあることが挙げられる。

 KDDIは全国に光回線を広げている最中。2月からは新たに11県で拡大し、合わせて36都道県で利用できるようになる。その回線の枝葉が中小企業まで延びてきたのだ。

 加えてスマホが進化して、バッテリーなどにおいても法人向けにも使える端末が出てきた。

 ミソは、クラウドサービスにある。クラウド上で情報を管理できるようにすれば、今後も様々なサービスを提供することで付加価値をつけられるのだ。

 このような戦略は、固定から携帯まで顧客の囲い込みにつながるだけではなく、従来の携帯電話からスマホへと移行させるために、データ通信料を稼ぐことにもつながる。客単価は2~3割上がる見込みだ。

 KDDIでは、個人向けにも家庭の光回線とスマホのセットで最大3割値下げをすることにしており、この春から、大攻勢をかける構えなのだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

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