6月29日、KDDIの田中孝司社長と、楽天の三木谷浩史会長兼社長は、電子マネーの分野で決済インフラを共同で整備するという提携について華々しく発表した。

スマートフォン最後発のKDDIが<br />“WiFi基地局”を無料提供する狙い2011年夏の新商品発表会から、スマートフォンシフトをより鮮明に打ち出したau。現在は、まだ先行するiPhoneやiPadの商品力に負けている感があるが、やがてはAndroid端末の種類も増えて商品力の差は縮まってくる。追い上げるauは、NTTドコモやソフトバンクとは異なる発想で、シームレスなサービスの実現を目指す

 その一方で、同じ日の午後には、会見こそなかったが、KDDIはある重要な案件をひっそりとリリースした。内容は、改めてauの携帯電話の契約者に対して、まだ開始していなかった公衆無線LANサービスの提供を始めるという地味な話である。

  だが、通信業界にとって、いやauのユーザーにとっても、こちらの取り組みのほうが、はるかに重要だ。KDDIは、6月30日より、街中のカフェや駅などの人が集まる場所に公衆無線LANスポット(WiFi基地局)の設置に乗り出した。順次その数を増やし、2011年度末までに全国10万ヵ所まで拡充していくという。

  同社は、昨年の10月に公衆無線LANの敷設を手掛けていたベンチャー企業を買収したが、ようやく自前の展開に向けて動き出した格好だ。最大の特徴は、最新型の公衆無線LANスポットを“無料”で利用できる点である。auのスマートフォンのユーザーなら、今後はデフォルトでWiFi基地局を使えるように設定されているというイメージだ。“最初からサービスに組み込む”という考え方が新しい。

  もとより、KDDIの田中社長は、昨今のスマートフォンシフトの影響によるデータ通信の急増について、「(このまま増え続けると)2012年後半からネットワークがオーバーフローする。今の周波数帯域では3分の1も吸収できない」と危機感を露わにしてきた。

  それもそのはず、現在主流の第3世代携帯電話で使っている3G回線は、今日のようなデータ通信の急増を想定して設計されていなかったので、周波数帯域に余裕がない。通信事業者にとって新しい商材となったスマートフォンは、「ユーザーの利便性が増せば増すほど、通信ネットワークに負荷をかける」(NTTドコモの幹部)という矛盾した存在なのだ。

  その悩みは通信事業者にとって共通のものであり、すでにNTTドコモや、ソフトバンクモバイルは、スマートフォンで増え続けるデータ通信の負荷を軽減させるために、3G回線をメインにしながらも、その一部をオフロード(逃がす)するためにWiFi基地局を増やしてきたという経緯がある。

  ソフトバンク陣営は、もともとあった「BBモバイルポイント」(ソフトバンクテレコムが提供する有料の公衆無線LAN)とは別に、昨年の秋以降にソフトバンクモバイルが主体となってマクドナルドなどの飲食店内、新幹線内、JRの駅構内、空港内などで使える無料のWiFiスポットを増やして迂回させている。WiFi基地局を置かせてもらう代わりに、ADSLの回線を無料で引くという作戦で約3万ヵ所に設置してきた。

  そのようななかで、最後発のauは、ユーザーから見えないところで高速大容量ブロードバンドに適した無線通信「WiMAX」を事実上無料で提供するという方針を発表したのだ。それだけで急にauの契約者が増えるわけではないが、将来的に起爆剤となるポテンシャルを秘めている。

  通常、日本では、PCでの使用が中心だった公衆無線LANは、既存の携帯電話とは別種の契約(有料)を結ぶ必要があり、通信の切り替えは自分で行う必要があった。だがauは、先行するドコモやソフトバンクと異なり、回線の契約数を増やすのではなく、「1つの回線契約で多様なデバイスが使えて、別方式のネットワークにも切り替えられるマルチな環境を提供したい」(KDDIの幹部)と、逆の方向に舵を切ったのだ。

  それが、今回の公衆無線LANスポットの展開であり、パケット定額の契約者であれば、手動操作することなく、1台のスマートフォンで3G回線とWiFiをシームレスに使える。裏側を支えるのはWiMAXだが、ユーザーは意識せずに、各種のコンテンツやアプリケーションを楽しむことができる。