契約者数を伸ばし、財務基盤も堅固となりつつあるソフトバンク。その神髄は、他人の資産を借りて、手持ちの資産を効率化することにある。次なる成長の糧は15兆円の電力市場に見出したようだ。

 9月12日、国内外の自然エネルギー専門家を集めて開催された「自然エネルギー財団」の設立イベントでのことだった。

「2030年に日本の電力の6割は自然エネルギーにならざるをえない。発電事業のモデルケースをつくってみたい」

 設立者として登壇した、ソフトバンクの孫正義社長は、財団を頭脳とし、電力事業へ参入する意思をあらためて強調した。

 東日本大震災、その後の福島第1原子力発電所事故を受けて、ソフトバンクは自治体と組み大規模太陽光発電への参入をぶち上げた。約150に上る候補地の選定を進めるとともに「来年7月より1年間に10ヵ所ぐらいで始めたい」(藤井宏明・社長室自然エネルギー推進グループマネージャー)との意向を示している。

 注目すべきはその参入方法で、じつはソフトバンクの懐がほとんど痛まないことにある。

 まず、土地の確保は自治体に任せ、無償提供を受けることにしている。再生可能エネルギー特別措置法が成立し、発電した電力も電力会社が15~20年にわたり固定価格で買い取る制度が整備され、長期の安定した売り上げも見込める。

 資金調達もプロジェクトファイナンスの手法を採用、残りは共同出資として地元やメーカー、電力会社を巻き込む方針だ。仮に、2000億円の大規模事業になっても8割を借り、出資割合も全体の3割程度に抑える計画で、投資額はわずか120億円にすぎない。

 投資に対する利回りとなる内部収益率(IRR)も10%を一つの基準としている。つまり、余計なカネは出さず、利益はしっかりと確保する腹づもりなのだ。

 そこには、いまや売上高約3兆円、大手自動車メーカーをしのぐ営業利益約6300億円(10年度)という成功を収めたソフトバンクの神髄が見え隠れする。 

 そもそも、ソフトバンクの事業を牽引するのは、全体の約6割を稼ぐ携帯電話事業で、規模の拡大がすべて(図①)。そのためにソフトバンクはさまざまな新手法を繰り出してきた。

 06年のボーダフォン日本法人を約1兆7500億円で買収し携帯事業に参入した後、割賦販売や加入者同士の通話を無料にしたホワイトプランの開発、iPhoneの独占販売によって、顧客の心をつかみ契約者数は右肩上がりだ。

 買収直後、自己資本比率は6.6%にまで落ち込んだものの13%まで回復、稼いだカネから投資を引いたフリーキャッシュフロー(FCF)は約5600億円に上る(図②)。結果、手元資金で支払えるぶんを除いた借金にあたる純有利子負債は約1兆1000億円となり、目標の「14年度ゼロ」にも届きそうだ。