「勝利」という結果のために、過酷な努力をする――。これこそが、超一流アスリートの生き様です。しかし、競技生活を終えたあと、彼らは「結果よりも大切なものがある」と口を揃えます。それはいったい何なのか? この記事では、元バドミントン選手の潮田玲子さん、元テニス選手の伊達公子さん、元柔道選手の野村忠宏さんに伺った話をもとに、「やりきったあとに見えてくる、人生でいちばん大切なもの」について考えます(この記事は、『超☆アスリート思考』(金沢景敏・著)を抜粋して編集したものです)。
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誰よりも努力したからこそ、「深い挫折」を味わう
「試合に勝つ」
「結果を残す」
すべてのトップアスリートは、そのために常人には想像もできないほどの努力を積み重ねていらっしゃいます。
これが限界というところまで練習をして、そこからもう一歩踏み込んだ練習をする。そんな過酷な練習を一日一日積み重ねても、大切な試合で勝てる保証はありません。それでも、「試合に勝つ」「結果を残す」という目的を果たすために、時に砂を噛むような思いでひたすら自分を追い込み続けるのです。
それだけに挫折は深い。
元バドミントン選手の潮田玲子さんから、その痛切な体験についてお話を伺ったことがあります。
潮田さんは、朴柱奉(パク・ジュボン)日本女子バドミントン監督のもと「鬼のような練習」を積み重ね、北京五輪とロンドン五輪に出場しましたが、残念ながらメダルを獲得することはできませんでした。
特につらかったのは、小椋久美子さんとのダブルスペア「オグシオ」で注目を集めた北京五輪のときだったそうです。
潮田さんと小椋さんは、アテネ五輪の出場を惜しくも逃した反省を生かして、北京五輪でのメダル獲得というゴールから逆算して、厳しい練習に耐え抜きながら、世界ランキングを上げるべく世界中を転戦する日々を積み重ねていきました。
そして、北京五輪の前年に行われた世界選手権で銅メダルを獲得。世界ランキングの6位に入ったことによって、やっとの思いで北京五輪への出場権を獲得することに成功したのです。
「自分は期待に応えられる人間ではない」という絶望
ここからが苦しかった。
北京五輪で、「オグシオ」に多くの期待が集中したためです。世間の注目を集めることに対する戸惑いと、ものすごいプレッシャーを感じながらも、1回戦、2回戦を勝ち上がりましたが、3戦目となる準々決勝で大失敗をしてしまうのです。
準々決勝の相手は、当時、世界ランキング1位の中国人ペア。だから、お二人は、この試合に勝てば「金メダル」に近づくという、強い「覚悟」をもって試合に臨んだそうです。
ところが、それまでの同ペアとの対戦で一番少ない点数で負けてしまいます。
「一瞬で試合が終わってしまった」という感覚で、「なんという情けない試合をしてしまったんだ……」と愕然とするほかなかったとおっしゃいます(ちなみに、準々決勝で負けた中国人ペアが優勝します)。
しかも、もう1チームの日本女子ダブルスは、準々決勝でいい試合をして、ベスト4に入賞。その姿を目の当たりにしたときに、「彼らと同じように過ごしてきたはずなのに、なぜ自分にはそれができなかったのか……」と消えてしまいたいような感覚に陥ったそうです。
東京に帰ってきてからも苦しみました。
どんなふうに人と会ったらいいかがわからない。みんなが「残念だったね」とねぎらってくれたり、励ましてくれたりしたそうですが、そのたびに、「自分は期待に応えられる人間ではない」と、ものすごく情けない気持ちになってしまうのです。一時期は、家から出られなくなってしまうほどだったといいます。
「今となれば、あれだけ多くの方々に応援していただいたのは、アスリートとして本当に幸せなことだったと思うけれど、当時は、本当につらかった。あのときが人生でいちばんつらい時期だったと思います」と、当時のことを振り返ります。
「メダリストではない自分」を、認められるようになったきっかけ
その後、気持ちを立て直して再出発。池田信太郎さんとの混合ダブルスで、ロンドン五輪に出場するなど活躍を続けましたが、2012年に現役を引退されました。
今度は、テレビ・ラジオでスポーツキャスターを務めるなど、選手を取材する立場で活躍されるようになったのですが、ずっと内心では、「メダリストではない自分を、なかなか認めることができなかった」とおっしゃいます。
しかし、スポーツキャスターとして、現役時代とは違う角度からオリンピックを経験するなかで、徐々に心境に変化が生まれたそうです。
潮田さんは、オリンピックの取材をするなかで、残念ながら負けてしまったアスリートが、「メダルが取れなくて、本当にすみません」と涙ながらに謝る姿を何度も目の当たりにしましたが、そのたびに心が苦しくなったといいます。
なぜなら、彼らが「メダル獲得」という目的に向かって、時に心が折れそうになりながら、必死で練習に取り組んでいる姿を取材してきたからです。だから、そんな彼らが謝る姿を見ていると、「あなたたちが謝る必要なんて1mmもない」という強い思いが心の底から湧き上がってくるのです。
そして、ご自分も同じだったことに気づきます。
彼らの姿は、まさに現役時代の潮田さんそのもの。一生懸命に頑張ってきたけれど、結果が出なかった若い選手たちにかけてあげた「あなたたちが謝る必要なんて1mmもない」という言葉を、ようやくご自分にもかけてあげられるようになったのです。



