本連載では、話題の新刊『最先端科学×マインドフルネスで実現する 最強のメンタル』の内容から、エビデンスに基づいた最新科学の知見をもとに、現代人が抱える2大メンタル問題「ストレス」と「プレッシャー」を克服し、常に安定して高いパフォーマンスを発揮するための方法をお伝えしていく。
「ここ一番」では脳の中でなにが起こっているのか?
「ここ一番」では、脳の中で一体どのような現象が起こっているのでしょうか?
これから、パフォーマンスを低下させている要因について、科学的に解明していきたいと思います。
私たちの脳の中で過去の失敗体験が想起される時、恐怖や不安と密接な関係がある脳の扁桃体と呼ばれる器官が活性化します。
扁桃体は、脳の左右にあるわずか1.5センチほどの器官ですが、私たちの人生をコントロールしている中枢といっても過言ではないでしょう。
扁桃体はトラウマ記憶と密接な関係があり、昔、苦い体験をした場面と似たようなシチュエーションに遭遇すると、心身を緊張モードにさせてその危険を回避しようとします。
危険を回避させるために扁桃体は、交感神経を活性化させ、瞬時に「闘うか?逃げるか?」の「闘争-逃走反応」、いわゆるストレス反応を引き起こして「ここ一番」に備えようとします。
適度なストレス反応は、集中力を高め、パフォーマンスを高めてくれますが、過剰なストレス反応は、身体をこわばらせ、パフォーマンスの低下を招いてしまいます。
多くのアスリートを悩ませるフリーズやチョーク、イップスと呼ばれる身体の硬直現象の多くは、この扁桃体の興奮によって引き起こされると考えられています。
通常、筋肉を動かす時、脳の運動野から錐体路と呼ばれるルートを経て、筋肉に信号が送られていきます。
しかし、緊急事態により扁桃体が興奮すると、扁桃体からも線条体と呼ばれる別のルートを経て筋肉に対して異なる信号を送ろうとします。
つまり、筋肉にしてみれば、監督とコーチから同時に異なる指示が与えられている状態なのです。
当然、筋肉はどちらのいうことを聞けばいいのかわからず、パニックになってしまいます。
その結果、パソコンでいうフリーズ状態のような、身体の震えや硬直が起こってくるのです。
サッカーのPK戦で例えれば、過剰な「結果」思考により、扁桃体が興奮し始め、交感神経が活性化し、その結果、身体はこわばり、シュートはあらぬ方向へと放たれてしまいます。
つまり「ここ一番」では、筋肉自体をただリラックスさせようとしても硬直現象はほとんど治まらず、その根本原因である扁桃体のコントロール、働きを抑えることが極めて重要なのです。