本連載では、話題の新刊『最先端科学×マインドフルネスで実現する 最強のメンタル』の内容から、エビデンスに基づいた最新科学の知見をもとに、現代人が抱える2大メンタル問題「ストレス」と「プレッシャー」を克服し、常に安定して高いパフォーマンスを発揮するための方法をお伝えしていく。
日本人は特にメンタルの強化が必要
元来、日本では、気合いや根性が尊ばれてきました。その影響から、本番で弱いのは努力が足りないからだという風潮が依然として根強く存在しています。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
なぜなら、日本人アスリートの練習量の多さは、世界的にもトップクラスといわれているからです。もう少し科学的に捉えていく必要があるといえます。
脳内には感情や気分を安定させる役割をするセロトニンという神経伝達物質があります。
そのセロトニンのレベルを保つセロトニン運搬遺伝子には、人によって長さの違いによる3つのタイプがあり、セロトニンがより多く出るLL型を持っている人は外界の影響を受けにくく、発現量の低いSS型、SL型の人は外界の影響を受けやすいと推測されています。
そして、LL型を多く持つ白人や黒人に対し、日本人をはじめとするアジア人はSS型が多いと報告されています。
これ以外にも、ストレス反応に関わる物質を生み出す遺伝子は、ここ数年の研究で10種類以上確認されています。そして、これらの遺伝子や環境的要因が複雑に絡み合い、最終的にその人のストレス耐性が決定されていくのだと推測されています。
いずれにしても、SS型を多く持つ日本人は、白人や黒人に比べ、プレゼンやコンペ、試合などのピリピリした環境による影響、ダメージを受けやすいということになります。
こうした不安を軽減させ、自分に自信をつけさせるために、日本人アスリートの練習量は多いのだと考えられています。
しかし、残念ながら「練習量=メンタルの強さ」ではないのです。
もし、練習量と本番でのメンタルの強さが比例するのであれば、日本人アスリートは、世界の中でもメンタルが強い部類に入らないと辻褄が合わなくなってしまいます。
多くの日本人アスリートは、インタビューで「今の自分に必要なものは?」と聞かれると、ほとんどの場合「メンタル!」と答える傾向にあります。それは多くの選手が自分のメンタルに不安を感じているということです。
昔から「心・技・体」のバランスが大事だとされていますが、実際は「心」がやられてしまうと、トレーニングで培ってきた「技」と「体」のパフォーマンスは大幅に低下してしまうのです。
海外でも今までは、筋力トレーニングや力学(バイオメカニクス)など身体を中心としたトレーニングや分析が行われてきました。しかし、それだけではもはや今以上に身体能力を伸ばすことに限界を感じるようになりました。
そして、神経科学の進展により、パフォーマンスに重要な役割を担っているのは、肉体のみならず脳であることが明らかになり、近年では、様々な脳科学的アプローチで高いパフォーマンスにつなげる試みがされるようになりました。
こうした科学的トレーニングは当初、スポーツチームや軍隊を中心に取り組まれていましたが、今ではエグゼクティブたちも行うようになってきました。最近、日本のビジネスパーソンの間では定期的に身体を鍛える習慣が根づいてきました。
将来的にその流れは、海外同様、脳やメンタルのトレーニングへと広がりを見せていくことでしょう。