以前このコーナーで、ネットは民主主義と資本主義のあり方を変えつつあることを説明しましたが、IT企業やネット企業は雇用の構造も変えつつあります。ちょうど最近、それを如実に示す興味深い記事が米国のニューヨーク・タイムズに出ていましたので、今回はその内容を紹介したいと思います。

アップルが産み出す雇用の少なさ

 先週、アップルの時価総額が4148億ドル(約32兆円)に達し、エクソンを抜いて世界一になったというニュースが流れました。iPhoneやiPadの成功により、今やアップルは米国を代表する企業となったのです。

 ニューヨーク・タイムズの記事では、そのアップルを題材に、技術進歩が米国内の雇用にもたらすインパクトを分析しています。

 まず、時価総額が世界一と米国を代表する企業になったアップルの米国内での雇用者数は4万3000人です。この数字はどう評価すべきでしょうか。

 1950年代の米国を代表する企業であったGMは、最盛期に40万人以上の米国人を雇用していました。1980年代の米国を代表する企業であったGEも、それには及ばないものの、数十万人の米国人を雇用していたのです。

 すなわち、アップルの雇用者数は、往時のGMの10分の1と、かつて米国を代表した企業と比べるとかなり少ないのです。

 もちろん、アップルは本体以外でも雇用を産み出しています。その代表はアップル製品を製造する下請け会社での雇用であり、そこでは70万人もの技術者や工場労働者が雇われているのです。しかし、その雇用のほぼすべては米国以外の国で産み出されたものであり、結論としてアップルがいかに成長を続けようと、それは米国の雇用にあまり貢献していないとなります。

 なぜそうなるのでしょうか。当たり前のことですが、製造部門を中国などのアジア諸国にアウトソースした結果に他なりません。