日本銀行は政治に対して自らの主張を貫けず、政治の圧力に屈することを繰り返す
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 政治からの圧力に弱い日本銀行の体質がまたも露呈した。

 日銀は14日、これまで「中長期的な物価安定の理解」として、前年比上昇率が「2%以下のプラスの領域。中心は1%」という曖昧な表現だったものを、「中長期的な物価安定のメド」を「当面1%」とし中長期の物価目標を導入した。併せて、資産買い入れ等基金を増額し、長期国債買い入れ枠を9兆円から19兆円にした。

 最近、日銀が金融緩和に踏み切るのは円高株安が進行している局面だった。今回は、株価が上向き始め、円高進行も一服していたため、事前に緩和を予想する声は少なく、その点では市場にとって驚きだった。緩和策発表前は1ドル=77円台だった円の対ドルレートは78円台へと低下し、発表翌日15日の日経平均株価は、前日比208円27銭高の9260円34銭と上昇した。

 日銀が自ら積極的に金融緩和に踏み出したように見えるが、今回もまた、そうではない。

 FRB(米連邦準備制度理事会)が1月25日に長期的な物価上昇率の目標を年率2%と明示した。それを受けて、国会では日銀の「中心は1%」という言い方はわかりにくいとの批判がわき起こった。

 また、解散総選挙の足音が近づくにつれ、景気浮揚に向けていっそうの金融緩和を求める声も高まっていた。「政治に押し切られるかたちでの金融緩和」(末澤豪謙・SMBC日興証券金融市場調査部長)であることは想像に難くない。

 目標とする物価水準について、表現は明確になったが、「物価安定の理解」においても、もともと1%前後が目標と取れる。「日銀のスタンスが変わったわけではない」(野口麻衣子・大和証券キャピタル・マーケッツ金融証券研究所シニアエコノミスト)。つまり、日銀はインフレ目標導入を求める政治家に言われるがまま、FRBの形式を踏襲しただけである。

 緩和策の効果が薄いことも、いつもどおりである。円安は長くは続かないだろう。「ドル円相場には日銀の政策より米国の中期金利動向のほうが大きく影響する」(田中泰輔・ドイツ証券グローバルマクロストラテジスト)からである。円安傾向が続かなければ、円安を材料としての株価の上昇も息切れする。

 国債買い入れ増額については、悪影響を懸念する声もある。日本の財政赤字が放置されれば、いずれは金利が急騰する場面が来る。欧州危機におけるECB(欧州中央銀行)同様、日銀は日本国債の大量買い入れに追い込まれるだろう。そのとき、日銀がすでに大量の国債を保有していると、さらなる買い入れが信認低下につながり、円売り、日本国債売りに拍車をかけることになる。

 これはいつもながらのことではあるが、日銀は主張を貫けないために、自らの首を絞めている。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)

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