安住淳財務大臣は「納得のいくまで介入」と発言したが、下限を設定した介入ではとうてい円高を反転させられない
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 円高基調の反転は期待できないが、売買の時機を逸していた日本の輸出企業にドルを売る機会を与えた──。これが10月31日の政府・日本銀行による円売りドル買い単独介入の現実的な評価だろう。

 今回の介入は市場にとって意外だった。FRB(米連邦準備制度理事会)の幹部がQE3(量的緩和策第3弾)をほのめかし、金融緩和期待からドルが下落、円相場は10月21日に1ドル=75円78銭と2ヵ月ぶりに戦後最高値を付けた。その後も最高値更新を繰り返したが、28日までは政府・日銀は動かなかった。11月3日からのG20首脳会議を前に欧米の金融当局から理解が得られず動けないのでは、と市場関係者が思い始めた矢先の介入だった。

 高値更新を重ねるなか、米国の金融緩和期待によるドル安予想に乗じて、投機筋の円買い残高が積み上がっていた。シカゴ通貨先物市場の非商業部門の先物の円買い残高は25日時点で5万4279枚と8月2日以来5万枚を超えていた。意表を突く介入で投機筋は損失回避のための円売りに迫られたと見られ、介入後円相場は一時79円55銭と介入前より4円安くなり、前回8月の単独介入時の円安方向に動いた値幅を上回った。

 今回、政府・日銀は売買の水準を決めた、指し値の円売り注文を出すという新しい手法も見せた。31日正午前から午後3時過ぎまで円相場は、79円20銭前後で動かなくなったが、これは政府・日銀が同水準で大量の指し値注文を出したためだ。80円を超える水準まで円安を進行させる介入は、欧米金融当局の支持を得られないとの判断のうえと見られる。

 ここに、輸出企業が大量のドル売りをぶつけてきた。ホンダが2011年4~9月期の決算発表時に下期の想定レートを、1ドル=75円にまで円高方向に引き上げたように、70円台半ばの為替レートの推移を覚悟し始めた輸出企業にとっては“恵みの介入”だった。

 11月1日、2日も円相場は78円台で推移したが、今回も前回までの介入後と同様に再び円高が進むだろう。円高圧力は依然弱まりそうにないからだ。低迷する雇用テコ入れのためにFRBがさらなる金融緩和を進めるのは確実。ドルには今後も下落圧力がかかる。加えて、31日にギリシャのパパンドレウ首相がユーロ圏による支援策の是非を国民投票で問うと表明したが、市場はその成否を危ぶんだ。31日、1日と欧州の株価指数は軒並み下落し、イタリア国債の利回りは8月5日以来の6%超えとなった。財政危機再燃を懸念したリスク回避志向の高まりは、円への上昇圧力となる。

 11月1日に安住淳財務大臣は介入の継続を示唆した。介入を決断した75円台を切る円高に対する牽制にはなるだろう。しかし、指し値注文の水準からもわかるように80円を超えて相場を反転させる意図は日本の当局にもない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)

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