そもそも日本企業では
社員の勤務実態を把握できていない

 野党からのデータの再調査要求に対して、当初は消極的だった安倍首相はその後、「実態把握をしない限り、政府全体として前に進めない」と姿勢を変えた。しかし私は、別の理由で再調査はおろか、このデータそのものにハナから意味がないと思っている。

 そもそも企業において、労働時間や残業時間の把握ができていないケースは依然少なくない。最新の「労働基準年報(2015年実績)」によれば、労働基準監督署の臨検事業所数13万3116件のうち、勤務時間管理に関する違反は2万7581件、全体の20%にも上る。

 これは氷山の一角で、把握できていても労働実態と乖離しているという事例は山ほどある。労働災害が発生してしまった時に、勤務管理表と実際の労働時間を調査すると、大きく異なっているケースがほとんどだ。裁量労働制の人はもちろん、一般労働者であっても、実態はあまり変わらない。

 勤務管理と実際の労働時間の乖離があるという状況の中で、形ばかりの勤務管理の報告を求めても意味がない。1日の労働時間が45時間であるというデータを含んだ報告が、そのまま首相の答弁に使われてしまう事態は、それだけ勤務管理報告が形骸化していることを示す、象徴的な出来事だと思えてならない。

 働き方改革の真の目的は生産性向上にあるはずで、耳あたりのいい「労働時間短縮」という言葉にこじつけて、無理に法案を通そうとする姿勢自体が間違っている。

「裁量労働制は労働時間短縮とは関係ない」「労働時間短縮と生産性向上の実現に向けて諸策を実施する」「社員の健康管理体制をしっかり行う」…首相は、裁量労働制の真の意図をストレートに、策を弄さず伝えていかないと、信頼を損うばかりだ。