というのも、日本の特に大企業は、一般的に終身雇用制度を前提とした人事制度となっており、毎年、高報酬の退職、新卒の入社という報酬サイクルがあります。このため、定期昇給による企業の負担はあまり発生しません。各種サーベイによると、定期昇給率は概ね1.6~1.9%となっていますが、その影響はマクロ経済で見ても、個別企業で見ても限定的となります。

 これに対し、ベアは無視できません。ベアは賃金カーブ全体のシフトアップであるため、個人にとっても、企業全体として見ても、一人当たり賃金の上昇となります。このため、企業が支払う報酬額を押し上げるのは、ベア部分が主となります。

 過去4年間は、平均で0.4%程度の実施となっており、企業はベア実施に前向きではありません。それは一度引き上げると引き下げが困難であるため、通常は中長期的な成長が期待できる時に実施する傾向があります。

ベアに控えめな日本の労組
インフレ上昇は好都合

 では、今の日本において、賃上げを左右する要因は何があるのでしょか。

 最大のファクターはインフレです。インフレは、家計の実質購買力を直撃するため、労働組合としても看過できないほか、企業からすると賃金上昇を販売価格に転嫁しやすくなると考えられるため、組合の要求に応じやすくなるからです。

 過去、経営側と交渉を行う主体である労働組合は、労働需給が引き締まっても、高い賃上げ率を要求しない、つまりベア要求は控えめになりがちな傾向があります。これは、春闘において労働者側の代表となる労働組合が正社員で構成されていることや、98年以降のデフレ期を通じて概ね企業が人員削減を含むコスト削減を続けてきたために、賃金よりも長期的な安定雇用を優先する傾向が強かったことが背景にあると考えられます。

 このためインフレは、労働組合にとって賃上げ交渉を行う材料として、企業同じ視点で協調しやすいテーマともいえます。日銀の分析によると、賃上げ交渉はエネルギー価格の変動も含めた、実質的なインフレの影響を受けやすいようです。