前2回で取り上げたオンライン小売のザッポスは、顧客サービスを中心としている企業であり、顧客コミュニケーションを戦略として重視している。ザッポスは顧客サービスによって感動というエモーションを提供し、それがコミュニケーションで増幅されることで大きなメリットを享受している。

 一人の顧客の感動がソーシャル・ウェブで共有され語り草になり、さらに自社サイトには熱い感謝を含む顧客からの声が連なる。顧客の感謝・感動がさらなる顧客を創造するという図式だ。エモーション×コミュニケーションが、顧客群の行動を形作るという新たな勝ちパターンである。これはソーシャル・ウェブの効果が背景にあり、経済性が劇的に変わったからである。

 これまで情報共有や集合知(collective intelligence)が注目されてきたが、コミュニケーションによる感動共有や集合エモーション(collective emotion)のインパクトはそれを上回る潜在力を持っている。少なくとも顧客群を動かす力としては、とても大きいことがザッポスの例で示されている。

 前回、かつて賞賛されたデル・モデルの限界を述べたが、デルはソーシャル・ウェブ重視の顧客コミュニケーション戦略へと舵を切っている。超効率化にいったん振ったデルゆえ、すぐにザッポスのように顧客のエモーションに訴求できるわけではないが、顧客との、そして顧客同士のコミュニケーションを重視している。

 では、顧客コミュニケーションにはどのように取り組めばよいのだろうか。

テーマごとに社員が情報発信
ザッポスに学ぶブログ活用術

 従来のオンライン販売は、買い物のプロセスを効率化し、短時間で終わらせることを狙っていた。しかし、特にファッションでは顕著だが、顧客は商品についての情報やアドバイスを求めている。

 これを示す調査結果も公表されている。何を買うか明確でなければ買えない従来のオンライン販売サイトは、顧客にとっては不十分なのだ。単に売るだけのオンライン販売から、次のモデルに進化することが求められているのである。

 この問題を解決するには2つの方法がある。ひとつは人による対応、例えば、電話でのアドバイス。もうひとつは、タイムリーに情報を発信することだ。

 前2回でザッポスの電話対応について書いたが、ザッポスはビジネス・ブログも熱心に行っている。靴やファッションのトレンドやそのシーズンの話題、どんな人が何を着ているかなど、テーマごとに社員が情報を発信しているのだ。

 ザッポス自社サイトのブログ・コーナーに行けば、クチュール(デザイナー)、ランニング、コーチ、ライドショップ、アウトドア、コンフォート、親、健康、ファッションと多彩な9つのブログを読むことができる。また、ザッポス(会社について)、インサイド・ザッポス(社内について)、CEO/COOと、会社関係のブログもある。さらにザッポスTV(動画)では、ザッポス社内の動画を配信すると同時に、例えば「coolest thing YOU can do with a shoe(靴でできる最もクールなこと)」といったテーマで、顧客が参加する動画コンテストも行っている。