兄弟もいない、子どももいないKさんにとってただ一人の家族が妻。結婚してからは夫婦というよりは同志のようにずっと一緒に生きてきた。よく笑い、いつもニコニコにしていた妻。その妻が、40歳を迎えた誕生日当日に突然、原因不明の体調の異変を訴えだした。Kさんも「妻に何かあったら」と今まで考えたこともない不安に襲われるようになった。

仕事中は携帯チェックもままならない
ホテル支配人Kさん(43歳)

40歳の誕生日当日に
突然不調を訴えた妻

 Kさんの妻が、体調の異変を訴えたのは誕生日の夜だ。ホテルの料飲部のマネージャーをしているKさんだが、たまの外食は気軽に過ごせる近所のファミリーレストランがお気に入りだった。

 Kさんが「今日は誕生日だからデザートにチョコレートパフェとかケーキとか頼んだら」と勧めてみたが、妻からの返事はない。

「ねえ、心臓がドキドキしていつもと違う気がする。脈が速くて気が遠くなりそう」

 Kさんは焦った。「救急車を呼ぼうか?」と聞くと「それほどでもない。でも病院は早く行きたい」と返ってきた。

 オーダーしたメニューをキャンセルして、Kさんは夜も診察を受け付けてくれる救急病院に急いだ。Kさんは助手席の妻が心配で仕方ない。結婚前からずっとずっと自分の分身のように感じてきた。ここまで不安そうな表情をしている妻は見たことがない。「何かあったらどうしよう」。Kさんは病院までの道のりが長く感じられた。運転中も赤信号で止まるとそれを無視して走りたい気分になった。

 名前を呼ばれて妻は診察室に入っていった。看護師さんが心電図をつけてくれている様子がかいま見えた。問診のあと、Kさんも診察室に呼ばれた。