イノベーションを生むのは「何もしない脳回路」?

 その真の機能が科学的に理解されるまで、DMNは「ほとんど何もしない」回路と考えられていた。しかし次第に、DMNが脳のエネルギーを特に多く消費していることがわかってきた。さらに、DMNは脳波の氾濫や統合という形で集中回路と広くつながっている。集中と非集中は肉とおいしいトマトソースの関係に似ている。肉がトマトソースの味を引き立てているのか? それともトマトソースが肉の味を引き立てているのか?どちらとも言いがたい。むしろ、両方がお互いを引き立てていると言ったほうが正しいだろう。

 脳内では、いろいろな種類の脳波が各回路に出入りする。そして、特定の機能に対してある種類の脳波が優勢になる。たとえば、非集中の状態がピークを迎えると、DMNにアルファ波が現れるだろうが、非集中をつかさどる一部の領域にはデルタ波が現れる場合もあるし、ベータ波が交じることもある。なぜなら、集中回路と非集中回路は絶えず“会話”をしているからだ。

 同じように、集中回路には、脳の注意を集中させるためにデルタ波よりもベータ波のほうが多く現れるだろう。しかし、1種類の脳波だけが単独で現れることはまずない。集中回路と非集中回路を分けて語るのがまちがっているのはそのためだ。ふたつは同時に働き、連動するようにできている。過集中の状態に陥ると、この脳内の自然なつながりが断たれてしまう

あなたに天才的ひらめきをもたらすDMNの6つの役割とは?

 脳内のDMNのつながりの性質や規模を理解すれば、集中と非集中がいかにして“連携”しているかがよりはっきりとする。DMNの役割は以下のとおり。

(1)気が散るのを防ぐ。

 逆説的だが、非集中回路は集中を維持する能動的で重要な役割を果たす。スポンジのように気が散る原因を吸い取り、目先の課題に専念させてくれる。

(2)頭を柔らかくする。

 非集中回路は回転軸のような働きをし、ある課題から次の課題へと注意を切り替えるのに役立つ。非集中回路を十分に使えば、あなたの頭はとても柔らかくなる

 あなたを自分自身や他者とより深く結びつける。非集中回路は、脳の各所に格納されているあなた自身の物語の一つひとつの要素とあなた自身を結びつける。つまり、あなた自身の伝記作家になってくれるわけだ。非集中回路のおかげで、あなたの性格や内省的思考といったすべてのものが今という瞬間の一部になる。非集中回路はあなたの遠い記憶に手を伸ばし、あなたの歴史を今という瞬間に反映させる。いわば、あなたを本当のあなた自身へと近づけてくれるのだ。