記憶競技のためにとりいれた「マインドフルネス」に、思わぬ効果がありました。「免疫機能が高まる」「ストレスの緩和」「ポジティブな感情の増進」「感情のコントロール」「記憶力が高まる」に並ぶものを手に入れたのです!
本連載では、脳の仕組みを活用した世界水準の集中力を磨く技術が網羅されている新刊『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる超集中術』から集中術のエッセンスを紹介していきます。

下がってきた集中力を戻し、注意力を上げる

 世の中に「マインドフルネス」という言葉が浸透するようになった今では、昔ほど「瞑想」という言葉の持つイメージに対して、アレルギーを起こす人は少なくなったのではないでしょうか。

「マインドフルネス」とは、もともと、「今起こっている心や体の状態に注意を向けた状態」のことを指しますが、世の中で知れ渡っているのは、「瞑想や呼吸法などを使って行う脳に対する健康法」のほうでしょう。

 年々研究が進み、スピリチュアルなものではなく、科学的に実際に効果がある方法として注目されているのです。これを続けることで、脳の構造自体もいいほうに変化してくることがわかってきました。

 そのため、グーグルやフェイスブック、インテル、ゴールドマン・サックスといった世界的企業が社内研修として導入し、そういった事実が流行に拍車をかける要因となっています。

「マインドフルネス」をすると、「免疫機能が高まる」「ストレスの緩和」「ポジティブな感情の増進」「感情のコントロール」「記憶力が高まる」など、さまざまな効果が報告されています。

 私自身も記憶競技の香港大会での惨敗から、一番初めに取り入れた対策が、この「マインドフルネス」のトレーニングでした。

 特に、メンタルのコントロール力の向上に期待して始めたのですが、トレーニングを続けていくうちに、私にとって一番効果があったのは、第2章のタイトルでもある「注意力」の向上でした。

 ロンドンでの「世界記憶力選手権」でトータル3時間の集中が要求される2つの競技をクリアできたときにそれを実感しました。時差ボケという最悪なコンディションでも、集中力の波をコントロールすることができたのです。

 このトレーニングをしていなかったら、下がってきた集中力を元の高い位置に戻すことを3時間ものあいだ、続けられなかったでしょう。

 ここで私のやり方を紹介します。同じ「呼吸」でも第1章とは、目的が変わります。

1.椅子に座って、自然に呼吸する
 まずは椅子に背筋を伸ばして座ります。

 両手を太ももに置き、目を閉じますが、表情は固くせず、ゆるめるようにしてください。

 呼吸は、鼻から吸い、口から吐くようにします。何秒で吸って何秒で吐くなどとは、特に考えません。あくまで静かにゆっくり楽に呼吸できればよいです。慣れてきたら、意識せず体にまかせる自然呼吸で構いません。

2.雑念が浮かんでも、呼吸に意識を集中させる
 次に、マインドフルネスの一番重要なポイントとなる意識の向け方です。

 マインドフルネスのあいだ、常にある対象に意識を集中し続けます。意識を集中するとは、感覚を感じ取るということです。マインドフルネスでは、次のことに注意を向けるのが基本です。

 それが、「呼吸」です。鼻や口を通る空気や呼吸によるお腹の動きなど、呼吸で生じる感覚に意識を集め続けます。

 そのうち雑念が浮かんでくるはずです。しかし浮かんできても、まったく問題ありません。むしろトレーニングのためには雑念が浮かぶほうがいいかもしれません。

 雑念が浮かんできたら、それに気づき、「ああ、今こんなことを自分は感じているのだな」くらいの感じで、その雑念を軽く手放し、また呼吸に意識を戻すようにします。

 この意識の操作が注意力を高めるトレーニングなのです。

 ですから、雑念が浮かんでも構わないのです。ダメなのは、雑念が浮かんできたときに、それに意識が取り込まれてしまって呼吸に意識が戻せなくなることです。

 意識が逸れていたことに気づくことができたら、それは喜ぶべきことなのです。上達すれば、雑念を軽く手放すことができるようになります。

 最初のうちは、それこそ1分でも構いません。慣れてきたら、徐々に時間を延ばして自分にとってちょうどいい時間を見つければいいのです。

 最初から無理をすると長続きしません。脳を変化させるためには、長い期間、行うことのほうが重要なのです。

 トレーニングを続けていくうちに、自分のことを客観的に見ることができるタイミングが増えていきます。

 それが脳の注意力が上がった証拠なのです。