「なぜこんなにも集中力がないんだ……」
仕事から、勉強、スポーツ、趣味まで、しっかり打ち込んで成果を出そうと思っていたのに、ついつい気が散ってしまう。多くの人が、そんな経験を持っていることだろう。ところが、ハーバード・メディカル・スクールで教鞭を執る「脳の専門家」スリニ・ピレイ博士は、集中力だけでは、むしろマイナスになるという。
最新の脳科学「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」で明らかになった、集中力と表裏一体の関係にある「非集中力」を活かす驚くべきメソッドを明らかにしたピレイ博士の最新刊、『ハーバード×脳科学でわかった究極の思考法』より、脳の潜在能力を解き放つために必要なことを、「はじめに」を抜粋してご紹介する。
「集中力」には副作用がある!?
私は医師、精神科医、そして企業幹部のコーチという立場から、自分を変えるための戦略を切実に求めている人々を見てきた。企業の役員室であれ診察室のソファであれ、仕事の流れ、職場の効率、リーダーシップ、学習、子育て、結婚、ダイエットに関する相談であれ、誰もが悩みを乗り越え、目標を成し遂げ、前に進む方法を探している。
そしてほとんどの人は、組織能力の改善、綿密な計画、高度な学位など、もっと何かに「集中」して取り組むことが問題の解決になると信じきっている。そのため、予定表、ToDoリスト、リマインダー、耳栓など、物事に「集中」するためのツールをあれこれと試してみるのだが、実際に使ってみると生活の質や生産性は思ったほど上がらないと気づく人が多い。
瞑想やマインドフルネスに関する記事を読み、こうした“心の筋肉”鍛えれば康や生産性が大きくアップすると信じる人々もいる。そして、瞑想やマインドフルネスを日常生活に取り入れてみるのだが、必ずしもうまくいくとはかぎらない。
また、自分が注意散漫、先延ばし症候群、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、意志力不足といった問題を抱えているのではないかと疑って私のところにやってくる人もいる。そういう人々の多くは、私が正式な診断を下して薬を処方すれば集中力を取り戻せると期待している。つまり、集中力の欠如が人生を妨げていると思いこんでいるのだ。
確かに、集中力が必要に見えるケースも多い(それでも薬物治療は乱用されているが)。実際、集中力は自分を変える大きな武器になる。集中力があればこそ、人々は思考、感情、体の動きを一致させ、最後まで仕事をやり抜くことができるし、子どもは学校で1日じゅう座って先生の話を聞くことができる。リーダーは共通の理念や目標を中心にみんなを団結させられるし、企業は市場シェアを伸ばせる。集中しないで針に糸を通したり、レシピどおりに料理をつくったり、家具を組み立てたりすることなどできるだろうか?
集中力にはこうした明らかなメリットがあるものの、私はあまりに多くの人が(知らず知らずのうちに)集中力崇拝に陥ってしまっていると思う。集中力こそ、なんとしても手に入れるべき最重要能力だと思いこんでいるのだ。実際には、集中力だけではあなたにとってむしろマイナスになる。あなたの能力を奪ってしまうのだ。
こう考えてみてほしい。集中力とは「脳の懐中電灯」だ。見るべき場所がわかっているなら、目の前の一点を明るく照らし出してくれる光線はとてつもなく役に立つ。だがそのぶん、周辺視野や、暗がり全体を照らし出す光は犠牲になる。極端な場合、心理学の用語で「非注意性盲目」と呼ばれる現象が起こる。こうなると、すべてのものには注目できないという単純な理由から一部のものが見えなくなる。脳が集中する対象を選ぶと、あなたに悪影響を及ぼすこともあるのだ。