たとえば社会福祉施設で、「家族からリスペクトされる職場づくり」のためのワークショップをやろうと考えたとしましょう。まず「『家族からリスペクトされる職場』と聞いて、具体的にどこを思いだしますか?」とお題を出して書きだし、それについて気軽に話しあってみるところから始めればいいのです。

 いきなり本題に入る前に、具体的にそういう会社やチーム、組織はどこだろうと考えてみると、チームとしてのアイスブレークになるだけでなく、より難しい問題に取り組む前の頭の準備運動にもなります。

 そういう事例を1、2挙げておきましょう。

 1つ目は、ある大企業の経営幹部が集まり、戦略を議論することになったときです。テーマは、事業を取り巻く環境変化を先取りして競争軸を変える、でした。競争軸を変えるというのは、教科書的にはリーダー企業ではなく、それにチャレンジしようとしている二番手、三番手が考えるべき戦略ですが、この会社は、世界的なリーダー企業であるにもかかわらず、自ら競争軸を変えて変化をリードしようとしていました。リーダーであることに安住していないところが流石です。

 そこで「リーダー企業が自ら競争軸を変えたケースを思いだしてください」というワークをはじめに行いました。そういうケースはたくさんありませんから、はじめはなかなか出てきませんでしたが、呼び水的に私の方から二つほど事例を紹介すると、あれもそうじゃないか、これもそうだ、とどんどん出てきて、その後の議論への足掛かりになりました。

 もう1つはF1のようなレーシングカーを製作している会社の事例です。自動車好きが集まっており、レース前には月に200時間を超える残業も厭わない猛者が集まっている会社です。

 好きでやっているとはいえ、さすがにこの残業時間は問題だということで、生産性の改善をテーマにワークショップが開かれました。そこで使われた「思いだし」は、当然「『生産性が高い』と聞いて思いだすチームを書きだす」となりました。

 ご多分に漏れず「トヨタ」「グーグル」「コンビニ」といった誰でも思いだしそうな企業に交じって、「新幹線の清掃員」「ラーメン屋の自販機」などが出てきて、参加者の笑いを誘い、一気に何でも話せるという雰囲気に変わりました。これがその後の発想に良い影響を与えたことは言うまでもありません。

 人は連想で考える、と書きましたが、多くの創造的な活動の原点にアナロジー発想があります。「それを自分の場合に当てはめるとどうなるだろう?」という発想です。「思いだし」が単なるアイスブレークではなく、その後の議論に役立つのは、このアナロジー発想をうながすところにあります。まったく違うもの、たとえば「新幹線の清掃員」「ラーメン屋の自販機」の発想を自分たちの仕事に当てはめるとどうなるかな?と考えてみることから新しいアイデアが生まれたりするのです。