ビジネスに限らず様々な問題を解決する手法として、ファシリテーションが注目されている。ファシリテーションの普及に長年努め、最新刊『ストーリーでわかるファシリテーター入門』(小社刊)を上梓した森時彦氏に、ファシリテーションとリーダーシップの関係について語って頂いた。
価値観の多様化が
リーダーシップを変える
──いま、日本企業でもファシリタティブなリーダー(ファシリテーター型リーダー)が求められていると聞きます。いわばリーダーシップのスタイルそのものにファシリテーションが密接に関わっているわけですが、なぜそれほどファシリテーションが重視されているのでしょうか?
ファシリテーションがリーダーシップ・スキルとして重要視されるようになった背景には、2つの要因があると考えています。
一つは、価値観の多様性が増していることです。ひと昔前のようにリーダーが一人で方針を決めて組織を動かそうとしても、メンバーの納得感が得られなくなっている。つまり、権威主義的な従来型のハードなリーダーシップでは組織がうまく機能しなくなっているということです。
こうした変化に対応するには、リーダーがさまざまな価値観の人たちの意見を聞き、それらの意見を組み合わせ、新しい答えを生み出していくプロセスが必要です。そうしたインタラクティブなプロセスを重視するのがファシリタティブなリーダーであり、それを私はソフトなリーダーシップと呼んでいます。
──従来型のハードなリーダーシップと、新しいソフトなリーダーシップの違いはどこにあるとお考えですか?
リーダーシップがソフトだからといって、指示命令しないわけではありません。両者の違いはオープンマインド、どれだけ心が開かれているかだと思います。意思決定の限られた時間の中で価値観の違う人たちとどれだけ心を開いてコミュニケーションし、どれくらい異質な考えを取り入れ、意思決定に結びつけているか。その違いが両者のリーダーシップを分けると私は考えています。
たとえば、日産自動車のカルロス・ゴーン社長やGE(ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウェルチ元会長は、ハードなイメージが強いかもしれませんが、お二人ともとてもオープンマインドで、ファシリテーションを重視しています。
ゴーン氏は「日産リバイバルプラン」に着手したときにクロスファンクショナル・チームを作りましたが、はじめは皆が自部門の利害を優先して会社のための議論にならなかった。それを聞いたゴーン氏は「なぜファシリテーターを入れないのか。日本にいなければ育成しなさい」と言って、初年度に2000人ものファシリテーターを育成したと聞いています。