会議やワークショップの生産性を高めるには、ファシリテーションの技術が欠かせない。では、ファシリテーターはどんな技術を使って議論をリードしているのか。森時彦氏の最新刊『ストーリーでわかるファシリテーター入門』(小社刊)の解説より、ファシリテーターに求められる思考の技術を3回にわたって特別公開する。

ファシリテーターに求められる思考の技術(前編)森 時彦(もり・ときひこ)神戸製鋼所を経てGEに入社し、日本GE役員などの要職を務める。その後、テラダイン日本法人代表取締役、リバーサイド・パートナーズ代表パートナーなどを歴任。現在はチェンジ・マネジメント・コンサルティング代表取締役として組織活性化やリーダー育成を支援するかたわら、執筆や講演等を通じてファシリテーションの普及に努めている。ビジネス・ブレークスルー大学客員教授、日本工業大学大学院客員教授、NPO法人日本ファシリテーション協会フェロー。

 ファシリテーターには、参加者が納得する思考のプロセスを構想し、実施するスキルが求められます。そのポイントを以下のように整理しておきたいと思います。

・ゴールを常に意識する
・話しやすい状況を維持する
・時短型アイスブレークとしての「思いだし」
・具体論と抽象論の往復
・良いアイデアが出ないときの原因と対処法
・収束の技術
・「場外」のアイデアを拾う

 順番に見ていくことにしましょう。

〈技術1〉
ゴールを常に意識する

 思考の自然な姿は自由連想だと思います。人の脳は、1000億個のニューロン(細胞)が150兆ものシナプスでつながれたネットワークからできていると言われており、思考は、その巨大なネットワークの中のメッセージのやり取りとして構成される。そこで起こる偶発的なつながりが自由連想。その自由連想にある種の制限を加えることで、論理的な思考や感覚的な思考ができるのではないかと思います。

 自由連想で考えるということは、話があちこちに飛ぶということです。たとえば関心が細部に向かうと、そのまわりに思考が集中して、ゴールとは関係ない方向へと話が展開してしまいます。それは脳の構造から考えれば自然なことです。

 だからでしょうか、ゴールは気にせず、意識をすべて目の前のことに集中して、思うがままに話に没頭できると実に楽しい。そして熱中していた話が終わると、「ところでいま、何のために話しあっているんだっけ?」と、まるで夢から覚めて、一瞬道に迷ったような気分になることがあります。

 そういうときに、「今度はこちらについて話しあってください」とファシリテーターがゴールへの道筋を示してくれると大いに助かります。問題解決には、細部にまで深く突っこんだ議論が不可欠ですが、そのために大きな流れを見失うと答えが得られません。そうならないように、ファシリテーターは細部の議論を意識しながらも常に全体を俯瞰し、ゴールへの流れをガイドするという役割を果たすのです。逆にそういうファシリテーターがいると安心して議論に没頭でき、楽しいものです。