通常のレギュラーシーズンの試合だったら、このタイミングで緊張は収まっただろうが、このときはそうはならなかった。2回以降も、「ストライクが入るかな……」「大丈夫かな……」と思いながら投球を続けた。ようやく緊張感から解放されたのは、5回表の投球を終えてから。5回表にソロホームランを打たれたが、5イニングスを投げて、その1失点だけで切り抜けたことで、「ああ、最低限の仕事はできた」と安堵して心が少し楽になったのだ。そして「これでいつ崩れても、リリーフの先輩たちにカバーしてもらえる。じゃあ、行けるところまで行ってみよう!」と吹っ切れた気持ちになれた。
6回からは、それまでが嘘のように身体が軽く感じられ、自分本来のピッチングができた。結局、僕は9回まで投げ抜き、2失点の完投勝利。試合序盤は、いつ降板してもおかしくないようなピッチング内容だったのに、胴上げ投手にまでなれたのだから自分でも不思議に思う。
また、アテネ五輪3位決定戦での緊張感も忘れられない。金メダルしか期待されていなかったチームが、準決勝のオーストラリア戦で0-1のまさかの惜敗。チーム全体に停滞感が漂う中、銅メダルだけは何が何でも日本へ持って帰らなければならない状況だった。日の丸の重みを心の底から感じた試合でもある。
2012年、僕はかねてから憧れていたメジャーリーグに挑戦するために海を渡った。しかし、スプリングトレーニング中に肘を故障。そこからリハビリとマイナーリーグ生活が続き、結局、憧れのメジャーのマウンドに立つまでに2年半の時間を要した。その初めてのメジャーリーグでの登板も緊張したのは確かだが、上記の2試合ほどではなかった。プロ1年目と2年目のこの2試合で経験したことは、僕にとってそれくらい衝撃的で大きな出来事だったのだ。
先ほどから何度か、僕は緊張感を解くために「開き直る」という手法を語ってきたが、そのときに役立っているのがこの2試合での経験だ。試合前にどんな緊張感に襲われても、「あの2試合に比べれば、大したことないさ」と開き直れる。だからいまは、試合前の緊張感を試合途中まで引きずるようなことはまずない。つねに試合前、または初回の段階で収められるようになった。
緊張感と集中力には密接な関係がある
僕にとってマウンドに向かう前の緊張感は厄介な存在だ。上手に操れないと、自分本来のピッチングができなくなってしまう。ただ、まったく緊張感がなくても困ってしまう。それは、僕の中で、緊張感と集中力が密接な関係にあるからだ。