実用書の活用で語彙力を効率的に養う

 メールの浸透によって言葉の比重が高まっている昨今だからこそ、こうしてもう一度その作法に目を向けるのは有意義なことだろう。

 実際、近年では書店のビジネスコーナーに、メール術や語彙力を指南する実用書が山積している。こと実用書の分野においては、類書の数がそのまま世のニーズを示していると言え、ビジネスパーソンたちは、そうしたメールが孕む印象値の重要性に気づいているわけだ。

 メールのスキルを手っ取り早く上げる手段として、語彙力を増やすことが挙げられる。使える言葉が多いほど、表現の幅は広がるはずだ。

 そこで試しに、語彙力関連の実用書をいくつかピックアップしてみた。順にその内容をチェックしていこう。

 まず、『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(吉田裕子著/かんき出版)は、引き出しの多さが知性を表すという方針に基づき、200の言葉を取り上げている。

 ユニークなのは各フレーズの使いやすさを5つ星で評価している点で、たとえば「ご自愛ください」や「お足もとの悪い中」といった、挨拶メールでも頻繁に使えそうなフレーズは星5つ。「幸甚に存じます」や「寛恕」といった畏まったフレーズは星1つ。いずれもその言葉の出自や活用法を詳しく解説し、例文が添えられていて実践的だ。目上の人に宛てたメールを書く時など、辞書的な使い方をしてもいいかもしれない。

 タイトルにドキリとさせられる人も多そうな『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(山口謠司著/ワニブックス)は、「評価される人が最低限押さえている言葉」に着目し、51の言葉を紹介している。

 試しに話題の「忖度」の項をめくってみれば、「他人の心を推し量ること」と意味を解説するだけでなく、江戸時代まではこれを「じゅんど」と読んだ薀蓄が添えられている。この言葉を使うべき関係性を踏まえた上でこうした豆知識を披露すれば、知識と雑学に長けたイメージをあたえられるのではないだろうか。

 ちょっとした言い換えで、やはり知性派の印象を与えるコツをレクチャーするのは、『大人の語彙力ノート』(齋藤孝/SBクリエイティブ)だ。

 たとえば会議に備えて上司に資料を渡す際、「これを見ておいてください」と言う人よりも、「お目通しのほどお願いします」と言える人のほうが高く評価されるのは自明。同様に、相手からの誘いに対して、ただ「都合がつきません」と断る人よりも、「あいにく都合がつきません」と断る人のほうが気遣いを感じさせるのもまた明白である。同じ意思を伝える言葉であっても、表現ひとつで心証はがらりと変わることを痛感させてくれる1冊だ。

 語彙力は本来、努力の積み重ねに支えられるものだが、こうした実用書の活用で、そつなく最短距離を行く工夫も大切だろう。