プラス思考の力

 右手の問題が解決すると、僕は毎日欠かさず両手で練習を始めました。

 左手の親指が、日々少しだけ強くなっているのがわかりました。その日の演奏を始めると、前日よりも数回多くたたくことができたのです!

 僕は着実に前進していました!

 僕が好きなことを見つけられて、母は幸せでした。ただし、切手収集やパントマイムのようなあまりうるさくない趣味だったらよかったのに、と思っていたことでしょう。

 父も、音楽に夢中になっている僕を見て、この上なく喜んでいました。

 僕が練習していると、父はそのひどい音ではなく、僕の情熱に耳を傾けてくれました。そしていかに進歩しているかに注目してくれました。

 そして、昔の音楽仲間に、僕のドラムのレッスンを頼んでくれました。

 僕がプロのドラマーになることを夢見ていると知った先生は、最初のレッスンでこう言いました。
「君と同じ夢を持つ人は何百人もいる。その上、彼らの両手には指がある。君は信じられないほどつらい思いをすることだろう。

 でも、人に何を言われようと、絶対に気にするな。ドラマーになるつもりなら、音楽だけに集中して自分のために演奏するんだ。

 君は、他のドラマーのようには絶対になれない。だから、他人をまねしようとするんじゃない。自分のテクニックを見つけて、独自のスタイルを作り出さなくてはならない。僕は、そのお手伝いをしたいんだよ」

 この先生から、僕はその後何年にもわたってドラムを基礎から習い、やがて「自分にはドラム演奏ができる」ということを確信できるようになりました。

 しかし、それでこの僕の話のすべてが終わったわけではありません。

 それからのちの高校時代、大学時代、依然として僕は、外見による差別や偏見を受けたり、こっぴどく失恋したりします。なのに、時には僕のほうが、人を見かけで差別しそうになったりもしました。

 そんな自分の運命を、嘆いたこともあります。

 自分に与えられた長年の苦痛について、神を呪ったこともあります。

 でも、今では、神を非難すべきかどうかと葛藤していたこと自体が、愚かで、大きなエネルギーの無駄遣いだったとわかりました。

【最終回】<br />この人生は、僕自身が選んだもの。<br />それを知るために、<br />人は誰もがそれぞれの紆余曲折を経るのだろうニューヨーク市ブルックリンのアパートの前で、愛犬ディキシーと。

 時計を逆に戻す方法はありません。

 ならば、前進するしかないのです。

 人生が教えてくれた最大の教訓は、真にネガティブなものなど存在しないということです。それに対してどう反応するかによって、それが役に立つものになるか害になるかが決まるのです。

 思春期の苦闘のまっただ中で、人に「きみは大切なレッスンを学ぶために火傷を負うよう選ばれた」なんて言われたりしたら、そいつの顔のど真ん中にパンチをくらわせたかもしれません。

 でも今では、この人生は僕自身が選んだものだと信じています。
それを知るために、人は誰もがそれぞれの紆余曲折を経るのでしょう。

 僕たちが宇宙に送った思いや願いは、プラスのものであろうとマイナスのものであろうと、必ず自分のもとへ帰ってきて、現実のものになると信じています。なので、僕はいつでも、自分の思考や行動でプラスのエネルギーを送り出すように努力しています。

 その証拠に、僕の前には、幾度もの素晴らしい出会いがありました。

 同時に、これまで苦しみ、成し遂げてきたものすべてを振り返り、僕が本当にもっている唯一のものは、類のない人生経験だけだと気づきました。それを話すことで、人を助けられるのではないかと思いました。

 現在、僕はプロのジャズドラマーとして活動しながら、自分のこれまでの生き方を全米で語っています。それが僕が直面したのと同じような苦難と闘う人たちを助け、希望を与えられるかもしれないと信じて。

*ダン・カロの演奏は、YouTubeで見ることができます。www.youtube.com/watch

*この連載は、ダン・カロ著『そして生かされた僕にできた、たった1つのこと』から、抜粋したものです。高校、大学時代、そして現在、さらなる紆余曲折を経る彼の人生の軌跡は、以下の本書をご覧ください。


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