靴ひもを結ぶことをクリアして、自信をつけた僕は、いよいよドラムに挑戦し、夢へと近づいていく。その後の紆余曲折を経てわかった、
「時計を逆に戻す方法はない。ならば、前進するしかないのだ」。
感動の軌跡を追った連載、最終回。
運命を信じて
もうすぐ13歳という時、父に、僕にできる楽器を見つけてほしいと頼みました。
父は嬉しそうに微笑みました。この瞬間をずっと待ち望んでいたかのようでした。
僕は音楽一家に生まれました。父は、結婚前はプロのトランペット奏者で、その両親もミュージシャンでした。二人の兄もトランペットとトロンボーンを演奏しています。しかも、ニューオーリンズという土地柄、いつでも音楽が聞こえていたのです。
もしミュージシャンになることが僕の運命なら、今、その運命をまっとうする準備ができたと、しっかり結ばれた靴ひもが語っているように思えました。
すぐに、父と二人で楽器を探し始めました。
最初に試したのは、わが家の伝統である、トランペットでした。しかし、ほとんど焼けてしまった僕の唇には、不向きでした。ピアノ、ギターも試しましたが、やかましい音を立てるのが関の山でした。
僕は父と、指や唇を必要としない楽器はないか、何時間も考えました。
やがて父は、目を輝かせて言いました。
「スネアドラムならできるかもしれないぞ!」
次の土曜日の朝、僕は父と車に乗り込み、町の質屋へと向かったのです。
その日、父は、スネアドラムとドラムスティックを買ってくれました。
そして父が、わが家にスネアドラムを運び込んで組み立ててくれた瞬間から、僕はほとんどの時間を、ドラムをたたいて過ごしたのです。
最初は、演奏とはほど遠いものでした。スネアドラムを強く打つ僕は、巨大なセコイアを滅多打ちにしている木材伐採員のようだったに違いありません。
問題は、僕の右手に指がなく、左手に作られた親指にもあまり力が入らないことでした。ですから、スティックをしっかり握ることができなかったのです。
ドラム演奏には、スティックを握るテクニックも重要です。僕は力いっぱい振りましたが、それは何の役にも立ちませんでした。
すぐに、普通のドラマーのように演奏しようとするのはやめました。僕は普通ではなかったからです。
僕はこれまで何事も、自分独自のやり方で可能にしてきました。ですから、必ずドラムもたたけるようになる、と誓ったのです。