原価に利益を乗せた価格は
最悪の値決めの方法
「前にも言ったけど、君の店は1日どう頑張ったとしても、最大70人の4500円払ってくれるお客さんに来てもらうだけの話やな?」
「はい」
「ということは、新宿中の10分1000円の理容室に行きたい人を説得して4500円の『ザンギリ』に来てもらわなくても、4500円のお店に来たい人だけ見つけたらすぐ一杯にできるやろ? そう思わへんか?」
そう言われてしまうと、そのとおりなのだが、それが難しいのだ。
「でも、そんな簡単なことじゃないですよ」
オレは少しムッとした声で言った。
「じゃあな、今度は、価格はどうやって決めるか、知ってるか?」
「価格ですか?」
「現代の名経営者と言われる稲盛和夫も『稲盛経営12ヵ条』の6番目に『値決めは経営』と言ってる」
「まず、コストを計算して利益を乗せて……」
「それは、原価に利益を乗せて価格を決めるという意味で〈マークアップ・プライシング〉言うんやけど、最悪の値決めの方法や」
立三さんは面白そうに鏡の中のオレの顔をしげしげと眺めたあと、「あのな、近所にええ喫茶店あるんや。そこ行ってみよか」と誘った。