価値に見合った価格をつける

「うん。他にはどんな方法が考えられる?」

「他の店を見て決める?」

「それは競合価格設定。〈コンペティティブ・プライシング〉言うんやけど、理想的ではない。コンペティティブ・プライシングをやると、価格競争に巻き込まれてしまいやすいんや。それまで喫茶店で500円前後だったコーヒーの値段を、ドトールが220円、マクドナルドが100円で価格破壊を仕掛けたら、コンビニはみんな100円で右にならえや。どこかが『コーヒーは他の商品を買ってくれたら無料にします』て言うたら、みんな追随するで」

「まじっすか」

「うん。理想は〈バリュー・ベースド・プライシング〉て言うんやけどな、価値に見合った価格をつけることや」

「じゃ、価値って何ですか?」

悔し紛れに言うと、立三さんは笑いながら応じた。

「この間、喫茶店でコーヒー飲んだ時、君は店の向かいのドトールに連れて行ったやろ。もうちょっと歩いたらマクドナルドあるの知ってたのに」

「あ、そうですね」

「なんでや?」

「人からものを教えてもらうのに、マクドナルドじゃあれかなと……」

「せやな。その『あれかな』が、マクドナルドと比較した場合の価値やろ」

「たしかに」

「ほな、ここにいるお客さんは、なんでこの店に来てコーヒー飲んでると思う?」

「やっぱり味と雰囲気ですかね」

「100円のマクドナルドとも220円のドトールとも違う価値があるからやな」

「はい」

「価値というのは、お店によって全く違う。また、そのお店を使うお客さんによっても見出している価値は全く違う。その価値に対して払える価格というのも、人によってまちまちや。正体がない」

「本当ですね」

「その中で、できるだけ多くのお客さんが喜んでくれる価値を提供し、お客さんの数と価格を掛けた売上から費用を引いた利益が最大になるように、自分なりの価値と価格の組み合わせを選び出さなあかん。それが経営や」

【需要曲線】
財(物品)やサービスの価格と需要量の関係を示す曲線。一般的に、縦軸に「価格」、横軸に「需要量」をとったグラフにおいて、右下がりの線で示される。

【マークアップ・プライシング】
原価志向の価格設定手法の1つで、商品やサービスなどの価格を、仕入原価に一定率の利益を上乗せ(マークアップ)して算出する価格設定法。相手の弱みを知る医師、弁護士、会計士、経営コンサルタントなどのプロッフェショナルは、客の弱みと懐具合を見て値付けすることを避け、あえてマークアップ・プライシングを採用することが多い。

【コンペティティブ・プライシング】
競合他社の製品価格との比較で決める競争志向の価格設定法。

【バリュー・ベースド・プライシング】
製品の「価値」を推定し、価値に見合った値付けをする価格設定法。