お客様は店の雰囲気にもお金を払う

その喫茶店は、新宿西口の思い出横丁にある浦田屋珈琲店だった。

エアコンがほどよく効いていて空気が凛と澄んでいた。

席に着くと、エプロンをつけたアルバイトふうの女の子がオーダーを取りに来た。

立三さんは、すかさず「ブレンド2つ」と言って、話し始めた。

「この店、初めてか?」

「はい」

「初めての店ではそこのブレンドを飲むのが鉄則や。何しろその店のイチオシの味やからな。ここのコーヒー、何ぼするか知ってるか?」

オレはメニューを見た。

「720円です」

「ドトールのコーヒーは何ぼや?」

「ええと、たしか……」

「220円や。ほんなら、マクドナルドのコーヒーはいくらや?」

「100円です」

「ここのコーヒーは、マクドナルドの7倍以上やろ」

――本当だ。言われるまで、強く意識したこともなかった。

「さっきの〈マークアップ・プライシング〉やとな、ウチは高い豆を使ってるから、コーヒーは豆の値段の3倍でという発想になるから、店の雰囲気やロケーションを丸ごと無視してる。お客さんがお金を払っているのは、それも含めてやろ?」

「言われてみれば……」