通常、賃上げといえば、賃金水準を一律に引き上げる「ベア(ベースアップ)」を指す。最近は勤続年数に応じて賃金が上がる「定期昇給」の分も含めて賃上げ率を出すケースが増えているが、トヨタのように「手当」まで含めて算出するのは、極めてまれだ。

 ベア額を示せば、定期昇給分を足しても賃上げ率が3%に届かないことが、白日のもとにさらされる。賃上げ額を伏せたのは、それを恐れたからだと見られている。

 業績が堅調なトヨタといえども、高水準のベアには踏み出しづらい事情がある。

 自動車業界はいま、ガソリン車から電気自動車への「100年に1度の大変革期」(豊田章男社長)。デジタルカメラの登場でフィルムカメラが駆逐されたのと同じ現象が、自動車でも起こりかねないのだ。いまの「勝ち組」も、安穏としてはいられない。

 いったん上げると下げづらく、将来にわたってコストとして重くのしかかる賃金の引き上げに経営陣が慎重になるのは、当然のことだ。手当の支給にとどめておけば、業績の悪化時には廃止すればよく、経営へのダメージは小さくなる。

 だが一方で安倍政権からすれば、日本で最も稼ぐ企業にすら要請に応じてもらえなかったことになり、面目は丸つぶれだ。

 トヨタの経営陣は否定するが、手当をまぶして賃上げ率を3%台に乗せたのは、「政権への配慮」だと、受け止められている。

 政府の要請に応じたように見せる「苦肉の策」とはいえ、衝撃は小さくなかった。

シャープは平均年収で「3%」
東芝は人員削減とセットで

 2016年に台湾の鴻海精密工業の傘下に入り、経営再建を果たしたシャープも今年の春闘で賃上げ額を公表しなかった。

 代わって回答したのが「年収の平均3%の引き上げ」だ。