教育の未来とは、こういうものになるのではないか……。
今、アメリカでそう議論されている教育サイトがある。「カーン・アカデミー」だ。
カーン・アカデミーには、数学や科学、物理学などを中心に3000本を超えるビデオがアップロードされている。利用はすべて無料。ビデオをクリックすると、黒板のようなものが現れ、さっそく講義が始まる。あるものは、人間の身体のつくりを説明すべく、心臓の写真と図がキャプチャーされていたりする。またあるものは、人類の進化を解説すべく、猿と立って歩く人間の絵が描かれる。
いずれにも共通しているのは、先生の声だ。顔は見えないが、まるで先生がすぐそこにいるかのように、チョークを手に黒板に絵や文字を書きながら説明してくれるのだ。しかも、その声は非常に包容力があり、楽しげで、教えるのが好きそうな先生なのだな、ということがひしひしと感じられる。
カーン・アカデミーの謳い文句は、「質のよい教育を、すべての人々のために」である。対象は、K-12(幼稚園から高校生まで)。十分な教育環境のない発展途上国の子どもでも、自宅で自習したい先進国の生徒でも同じように使えるのが魅力で、自分に適した速度で学習することを可能にする。一度見終わって次に進む生徒もいれば、もう一度見てしっかりと頭に入れたい生徒もいるだろう。そうしたことが自在にできるのだ。
また、構築的に学習するための見取り図も用意されている。ひとつのビデオ講義を理解したら、次はどのビデオを見ればいいのかがすぐにわかるようになっていて、それをこなしていけば、ちゃんとしたカリキュラム全体が終えられるというしくみだ。ビデオに加えて、練習問題もあり、回答を書き込むとすぐに正解かどうかがわかる。先に進むとバッジをもらえるなど、ゲーム的な要素もあって、飽きないしくみだ。
カーン・アカデミーは、2006年にインド系アメリカ人のサルマン・カーンによって創設された。カーンは、MIT(マサチューセッツ工科大学)で数学と科学の修士号を修め、その後ハーバード大学でMBAを取ったという頭脳超明晰人間。卒業後は、ヘッジファンドのマネージャーとして、大金を稼いでいた。
教育へ足を踏み入れたきっかけは、親戚と共にした夕食でのことだった。幼いいとこが数学がよくわからないと嘆いていたのを聞いて、カーンは助けることにした。それもコンピュータを介して、遠隔で、である。黒板に文字や図を書きながら音声で説明を加えるというスタイルは、この時に始まった。それをビデオにして、他のいとこも利用できるようにした。カーンは、いずれヘッジファンド会社を辞めて、この講義作りに専念することになる。