実際、これまでに日本企業から生まれたイノベーションの成功例には、一意専心の成果という色彩が強い。
たとえば、任天堂の「Wii」。絵の迫力ではソニーのプレイステーション3に負けるが、新しいゲームの楽しみ方を創造し、世の中を変えたイノベーションであった。技術的に優れたハードウェアを開発しようとしても、ソニーの強力な演算チップには勝てるわけがない。そこで任天堂は昔から手がけてきた花札の世界を目指した。
花札というゲームの価値は、ハードウェア(たとえば花札に描かれた「猪鹿蝶」のきれいさ)ではなく、「ちくしょう!」「よしきた!」とゲームに興じる人間のインタラクションにある。Wiiは、そうした花札の世界に原点回帰し、「人間のインタラクションが生み出す面白さ」の本質を見据えたコンセプトによって、新しいストーリーをゲームの世界に持ち込んだ。これがイノベーションとして結実したという事例である。
地味な産業材の分野でも、マブチモーターの標準化された小型モーターや東レの炭素繊維などのイノベーションの成功は、その背後に一意専心の論理がある。ユニクロの「ヒートテック」もまた、東レとがっちり組んで、長い時間をかけて素材開発からコミットした結果として生まれたイノベーションである。ヒートテックはアパレルの世界に新しいカテゴリーをつくり、人々の生活スタイルを変えるに至った。それはフワフワした流行を追いがちなアパレル業界にあって、「万人のためのベーシックな服」の世界でビジネスを深掘りしていくという、ファーストリテイリングの基本姿勢がなければ決して成し得なかったイノベーションである。
本書はイノベーション・マネジメントに一意専心してきた著者の知見が詰まった「たたき上げ」の方法論である。日本の読者が、今度は自ら自分の事業に一意専心し、そこから素人が及びもつかない「たたき上げ」のストーリーを構想し、イノベーションに向き合うきっかけを提供できれば、監訳者としてそれ以上の喜びはない。
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カーティス・R・カールソン/ウィリアム・W・ウィルモット:共著 楠木建:監訳 電通イノベーションプロジェクト:訳
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『イノベーション5つの原則』の著者、カーティス・R・カールソン氏(Curtis. R. Carlson/世界最高峰の研究機関SRIのCEO)や、監訳者である楠木建氏(一橋大学大学院教授)などが登壇するセミナーが開催されます。
日 時|2012年4月13日(金)13:30~17:00
定 員|150名(定員になり次第締め切らせていただきます)
会 場|社団法人 日本マーケティング協会 アカデミーホール(東京都港区六本木3-5-27 六本木YAMADAビル9F)
申込方法|JMAホームページよりお申込下さい。
●お問い合わせ先:(社)日本マーケティング協会 研究開発部 (担当:渡辺 jma01@jma-jp.org)
●詳しくは、こちらから。