ブリヂストン元CEOで『優れたリーダーはみな小心者である。』の著者である荒川詔四氏と、日本GE役員などを歴任して『ストーリーでわかるファシリテーター入門』を執筆した森時彦氏の対談が実現した。テーマはリーダーシップ。世界No.1シェアを誇るブリヂストンと、グローバル・ジャイアントであるGEでリーダーシップを発揮したおふたりは、いかにして現場とコミュニケーションをとってきたのか? その秘訣を伺った。
「コミュニケーション」という言葉を誤解していないか
森時彦氏(以下、森) 荒川さんのご著書『優れたリーダーはみな小心者である。』のなかで、「コミュニケーションとは『伝える』ことではない。『伝わった』ときに初めてコミュニケーションが成立したと言える」という趣旨のことが述べられていますよね。これを読んで、「まさにそのとおり」と膝を打ちました。
荒川詔四氏(以下、荒川) これ、間違えるんですよね。特に、上司部下関係のようにパワーに差があるときは要注意です。勘違いしている上司はすぐに「言っただろ?」と、理解できていない部下を責めたがる。だけど、「伝わってなかった」のだから、上司がダメなんですよ(笑)。
森 そうですよね。
荒川 そもそも、コミュニケーションとは「他人と共有する」という意味ですからね。本人が伝えたつもりでも、相手と共有できていなかったら、コミュニケーションが成立していないということなんです。だから「双方向コミュニケーション」なんて意味不明な言葉をつくり出してしまう(笑)。
森 「双方向コミュニケーション」。重複表現ですね(笑)。言葉の意味がわかっていないから、無意識に重複表現をしてしまう。
荒川 そう、コミュニケーションはそもそも双方向なんだから、重複表現ですよね(笑)。それだけではなくて、ときには傲慢にすらなりうる言葉だと、僕は思うんです。というのは、要は「いつもはこちらからあなたに何かを伝えようとするばかりだけれども、今回はあなたのほうからもこちらに何かを伝えてくれ」ということを表明していることになるからです。
森 まったくその通りですね。
荒川 「伝える」という行為を矢印で考えてみましょう。たとえば発注者として立場の強い企業が、受注者に対して「みなさんはパートナーです。私たちは双方向コミュニケーションをとっていきたい。要望があったら何でも言ってください」と呼びかけるとします。この「強者→弱者」の矢印はとても太いわけですね。
しかし、弱者(受注者)が同じ太さの矢印で要望を伝えられるかというと、そんなことできるわけがないんですよ。せいぜい、細くてひょろひょろの矢印で「もう少し納期を伸ばしていただけたら……」とか「もう少し単価を上げていただけたら……」と伝えるのが精一杯でしょう。
その精一杯の矢印に対して、強者は再び太い矢印で「わはは。またおもしろいことを」と突っぱねて、最後に言うわけです。「今日はいい双方向コミュニケーションができました」と。「対等な対話を歓迎する」という意味で、「双方向コミュニケーション」なんてよく使われますが、実際は、ほとんど強から弱へ・上から下へ矢を放っているような状況なんですよ。
森 私もそういうのを数限りなく体験してきました(笑)。上司と部下の関係でいう、「今日は無礼講だ」も同じ構図ですね。本当に無礼講だと思って上司と対等に接すると、「酒の席とはいえ、君ね……」と叱られるという……。
荒川 あはは(笑)。近いものがありますね。「双方向コミュニケーション」なんて結局は、パワーを持っている側の自己満足に過ぎないんです。本当にコミュニケーションをとろうとしたら、そんなわけのわからない言葉をつくる前に、同じ土俵でお互いの立場を理解し、尊重し合える場をつくる努力をすべきなんです。