ブリヂストン元CEOで『優れたリーダーはみな小心者である。』の著者である荒川詔四氏と、日本GE役員などを歴任して『ストーリーでわかるファシリテーター入門』を執筆した森時彦氏の対談が実現した。テーマはリーダーシップ。世界No.1シェアを誇るブリヂストンと、グローバル・ジャイアントであるGEなどでリーダーシップを発揮したおふたりは、「働き方改革」がリーダー育成を妨げるのでは……、と心配する。なぜか?

優れたリーダーはみな小心者である

森時彦さん(以下、森) 本日はよろしくお願いします。荒川さんにはぜひお目にかかりたいと思っていました。『優れたリーダーはみな小心者である。』を拝読して、素晴らしいリーダーシップ論だと感銘を受けたからです。

 私の『ストーリーでわかるファシリテーター入門』では、権威主義的に上から押さえつけるようなリーダーシップではなく、インタラクティブなリーダーシップを描いています。私はそれを「ソフト・リーダーシップ」と呼んでいるのですが、それがブリヂストンのようなグローバルNo.1シェアを誇る超大企業でも実践され、大きな成果をあげていると知って、心が沸き立ちました。

荒川詔四さん(以下、荒川) そう言っていただけると、嬉しいですね。本を書いた甲斐がありました。私も、森さんの『ザ・ファシリテーター』『ストーリーでわかるファシリテーター入門』を拝読して、リーダーシップに対する考え方にとても共感を覚えました。

「働き方改革」がリーダー育成を妨げる!?『優れたリーダーはみな小心者である。』著者・荒川詔四さん(左)
『ストーリーでわかるファシリテーター入門』著者・森時彦さん。

 それにしても、『優れたリーダーはみな小心者である。』というタイトルは、逆説を述べているようで、実に真理を突いているように思います。たとえば、日本電産の永守重信さんは剛直な人物というイメージがありますが、ご自身の著書やインタビューを読むと、よく「私は小心者だ」と述べられていますよね。

荒川 そうですね。彼とは、同い年のよしみもあって、時々お話するんですが、小心者同士、考え方に共通することが多いんですよ(笑)。実際、おそろしくパワフルな方ですが、一方で物事を実に繊細な目で観察する人物ですよね。彼の発言には、いつも学ばせていただいていますよ。そういえば、ユニクロの柳井正さんも最近、新聞で似たようなことをおっしゃってましたね。“小心者ブーム”なんでしょうか?(笑)

 いや、ブームではなくて、それが真理なんじゃないでしょうか? インテル第3代CEOで同社を世界的な企業に育てたアンドルー・グローヴも、「Only the paranoid survive(病的な怖がりのみが生き残る)」という言葉を遺しています。「優れたリーダーはみな小心者である」ということは、昔から変わらない真理のような気がします。

荒川 そうかもしれませんね。僕は日本のみならず、タイ、中東、ヨーロッパなど世界中の企業トップと付き合って来ましたが、「この人は優れたリーダーだな」と思う人は、みな「小心さ」「繊細さ」を兼ね備えていました。

 自ら世界14万人の従業員のトップとして仕事をして、リーダーが力任せにガーッと押すことで何かが生まれるなんてことはないと確信しますね。1人のリーダーがガーッと押したところで、その力が及ぶ範囲などたかが知れています。小さな組織であれば、そのやり方が通用することもあるでしょうが、組織が大きくなればなるほど、それではとてもではありませんが組織は動きません。

『優れたリーダーはみな小心者である。』にも再三書いたんですが、そもそもリーダーシップとは、“無理やり人を動かす”ことではないんです。みなが共感する理想を掲げて、メンバーの主体性を引き出すことによって、目的を達成するのがリーダーシップです。そのためには、メンバーの気持ちを細やかに感じ取る繊細さが不可欠なんです。

 まったく同感です。私は、長年にわたってファシリテーションという概念と技術の普及に努めてきましたが、それはまさに今言われたリーダーシップを発揮する上で、とても役立つからです。個々人の主体性を尊重しながらチームとしての合意を形成し、実行に結び付けていく効果的な方法論なのです。おそらく、荒川さんはファシリテーションを実践してこられたのだとご著書を拝読しながら感じました。

荒川 いやいや、とんでもないです。森さんのご著書を読んで、現役時代にファシリテーションを学んでいたら、もっとよいリーダーになれたように思いましたよ。