「優れたリーダーはみな小心者である」。この言葉を目にして、「そんなわけがないだろう」と思う人も多いだろう。しかし、この言葉を、世界No.1シェアを誇る、日本を代表するグローバル企業である(株)ブリヂストンのCEOとして、14万人を率いた人物が口にしたとすればどうだろう? ブリヂストン元CEOとして大きな実績を残した荒川詔四氏が執筆した『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)が好評だ。本連載では、本書から抜粋しながら、世界を舞台に活躍した荒川氏の超実践的「リーダー論」を紹介する。

優れたリーダーは、「何もしていない」ように見える

 リーダーはプレイヤーではありません。
 当然のことです。プレイするのはメンバーであり、彼らが思う存分活躍することによって「結果」は生み出されるのです。つまり、リーダーは「1円」も稼いでいないということ。いわば、リーダーは直接的に「結果」に繋がることは何ひとつしていないと言ってもいい。いや、優れたリーダーは、一見したところ何もしていないように見えるものなのかもしれません。

 だから、口には出さずとも、現場で一生懸命汗をかいて「結果」を出してくれているメンバーに感謝の気持ちをもたなければならない。これは、リーダーがリーダーとして機能するために、きわめて重要なことがらです。

 ただし、リーダーが「1円」も稼いでいないことは、決してネガティブなことではありません。むしろ、現場のことは現場のオーナーシップに任せることが重要。リーダーがしなければならないのは、現場が活躍しやすいように、あるいは、現場ができるだけ簡単に「結果」を出せるように、最適な「条件」を整えることです。そのことを忘れて、むやみに現場に手を突っ込むような真似をするのは現場にとっては迷惑。リーダーシップを損ねる結果を招くのです。

 だから、私はこう確信しています。
 経営とは「形」をつくることだ、と。
 戦略の「形」を整え、組織の「形」を整え、事業の「形」を整える。そして、現場のメンバーが士気高く、伸び伸びとプレイできる環境を整え、全体が有機的に機能する「エコシステム」をつくり上げることこそが、経営なのです。

 そして、その結果、業績が上がれば、第一に称賛されるのは素晴らしいプレイをしてくれた現場のメンバーです。そこでリーダーがしゃしゃり出る必要などありません。それは、むしろぶざまというべきでしょう。しかし、そんなプレイヤーがたくさん登場してくれれば、自然とリーダーとしての実績も上がります。それを感謝の気持ちをもって受け止めればいいのだと思うのです。