「水風呂」に30秒入るだけでいい
数年前、バイオハッカー(注:自らの体を数値化、徹底分析して科学的に心身の最適化を試みる人たち)の仲間内で、寒冷療法で氷水を入れた浴槽に浸かることが大流行した。このせいで僕は体の15%に第1度の凍傷(いてて!)を負ってしまったが、あとから氷詰めになったり氷のように冷たい水に入ったりする必要はないことがわかった。約15℃の冷水で、ミトコンドリアには大きな刺激になるのだ。しかも、たった30秒浸かるだけで、その後はとても良い気分になる。
寒冷療法は「迷走神経」に活力を与えるのにも役立つ(*5)。ラテン語で「放浪」を意味する名をもつこの神経は、脳幹から始まって全身に張りめぐらされ、脳と胃や消化管、さらに肺、心臓、脾臓、腸、肝臓、腎臓とをつないでいる。そしてまた発話、アイコンタクト、表情、聴覚と関係した神経ともつながっている。
迷走神経の主な仕事は、あなたの体で何が起こっているかを監視し、脳に情報を報告することだ。副交感神経系の主要な要素であり、闘争・逃走反応で活性化した神経を静める責任を担っている。迷走神経の活動の強さは迷走神経トーンでわかる。迷走神経トーンが高ければ、ストレスを経験したあと、素早くリラックス状態に戻ることができる。
これはパフォーマンスのとてつもなく重要な側面だ。あなたの闘争・逃走反応がいかに集中力に影響を及ぼすかを考えたうえで、あなたのラブラドール脳が怒るたびにもっと早く回復できたらどんなに違うか、想像してみてほしい。
迷走神経トーンは、ほかにもいくつかの形でパフォーマンスに影響する。迷走神経トーンが高い人は、血糖値がより健康的で、エネルギーの供給もより着実だ(*6)。迷走神経トーンが低い人は慢性の炎症にかかっている可能性がある。
迷走神経はラブラドール脳が現われたあとでこれを静めるのと同時に、免疫系が活性化されたあとで炎症性タンパク質の生成のスイッチを切りもする。迷走神経トーンが低いと、同じように早く炎症を遮断できないから結果として炎症が慢性化するわけだ。