バイオハッカーが「水風呂」に入りたがる科学的理由

シリコンバレーでIT企業家として長年活躍してきた著者が、ITの専門家としての技能を生かして、自らの体を「ハック」し尽くし、さらには23年の歴史を持つパロアルトのNPO、シリコンバレー保健研究所の所長(後には会長)として、さまざまな医学分野のエキスパートに取材し、現在の科学の最先端の脳の機能UP法を1冊にまとめた。タイトルは『HEAD STRONG シリコンバレー式頭がよくなる全技術』。アメリカでは初版から10万部で刊行され、大反響を呼んでいる。本稿では、同書から特別にそのハイライトを紹介したい。

「寒冷療法」でテストステロンと成長ホルモンを増やす

 寒い環境を利用して体内に熱を発生させる方法として「寒冷療法」というのがある。これまで長い年月にわたり多様な寒冷療法が行なわれてきた。

 古代ローマ人は「フリギダリウム(冷水浴室)」に身をひたし、古代スカンジナビア人は凍った湖に穴を開けて冬に水泳をした。痛む筋肉に氷を当てるのも寒冷療法の一種だ。シャワーの最後の30秒を冷水にするのも!

 冷水に浸かったりアイスパックを使ったりして体温を下げるとき、体は熱を生じるように強いられる。これは産熱(熱発生)と呼ばれる。脂肪を燃やし、タンパク質を放出させる刺激を与えるプロセスだ。

 そのタンパク質は筋肉に蓄えられたグリコーゲン(糖原質。グルコース〔ブドウ糖〕の主な保存形態)を燃やす。筋肉のグリコーゲンが使い果たされると、体はテストステロンと成長ホルモンの生成を増加させるようにとのシグナルを受け取る。

 これが一連の好循環となる。炎症を減らし、インスリン感受性を高め、自食作用を促して弱くて損傷された細胞を死なせ、新しい健康な細胞の入る余地をつくる

 寒冷療法が、甲状腺およびミトコンドリアの機能を改善するというエビデンスもある(注:ミトコンドリアが脳や体を強化する理由については本書を参照)。ラットを使った研究では、低温への曝露が甲状腺の機能を改善したことがわかり(*1)、人間の研究でも、それがエネルギーの消費を増やし、脂肪の減少の助けになることがわかった(*2)。

 寒冷療法はさらに、神経伝達物質ノルアドレナリンの放出を起こさせて(*3)、痛みを緩和し、もっと抗酸化物質(とりわけ体にとって最良の抗酸化物質グルタチオン)を生成するよう体にシグナルを送ることができる(*4)。