孤独な晩年を過ごした作家の永井荷風は、引きこもりがちだった自宅の畳の上で、ひっそり亡くなっているところを発見されたという。
永井は晩年、自宅を訪ねてくる人に「本人はいません」などと門前払いしていたというエピソードも残されているが、まさに、周囲が気づかないまま亡くなる「孤立死」の先駆者だったともいえる。
東京・立川市や横浜市、さいたま市、さらに最近では原発の旧避難準備区域だった福島県南相馬市でも、「孤立死」が相次いで見つかった。
しかし、永井のように孤独のまま放っておいてほしいという人もいる一方で、「死にたくない」「生活ができない」「どこに相談すればいいのかわからない」と、助けを求めている人たちの声は切実だ。
「孤独死」は自分と家族の未来か
40代、引きこもり男性の葛藤
「孤立死は、他人事とは思えない」
こう明かすのは、ある地方都市の実家で、両親と3人暮らしをしている40歳代のAさん。
一時、豊かな山の自然を切り開いて、宅地開発が進められたこの地域でも、いまは所々に空き家や空き地が広がる。駅前の商店街も歯が抜けたようにシャッター通りと化していて、かつての活気は見られない。
Aさんは大学を卒業後、都会で会社員生活を送っていた。ところが、遊んでいるわけでもないのに、勤務中にウトウトと眠くなる日々が続き、ついに体調を崩して退職。バブル崩壊後の雇用環境の悪化によって、その後の再就職もうまく行かず、やがてこの故郷の実家に戻った。
気づいてみたら、社会とのつながりもすべて喪失。以来、近隣の目が気になるようになり、10数年にわたって、引きこもり状態に陥っていた。
地方の町には、なかなか仕事がない。
この2ヵ月の間にも、Aさんはアルバイトの求人に3件応募した。
その中に、観光施設で飼育する動物の世話や清掃などを行うアルバイトがあった。
元々、動物の好きな優しいAさん。実家でもずっと動物を飼ってきて、いまも猫と一緒に暮らしている。