NHKが1月31日に放映した「無縁社会~“無縁死”3万2千人の衝撃~」が大きな反響を呼んでいる。

 「身元不明の自殺と見られる死者」や「行き倒れ死」は、NHKの調べによると年間3万2000人。地縁や血縁、さらには会社との絆「社縁」を失った日本人の姿が浮き彫りとなった。「このままでは自分も……」と番組を見ながらぞっとした視聴者は少なくなかったことだろう。正月以来、ご無沙汰していた実家にあわてて電話をかけた人もいたかもしれない。

 だが、「無縁死ギリギリ」という事態に陥っているのは、家族のいない人々だけではないようだ。

 “家庭内無縁”に直面している人々の実態について、現場に聞いてみた。

親の介護中に死んだ
40代ニート

 真夏のある夜、地方都市の病院の救急搬送口に、ひとりの40代男性が運び込まれた。入浴後、脱衣所で体をふいていたとき、突然具合が悪くなり、救急車を呼んだという。診断結果は冠動脈疾患。病状はすでにかなり進行していた。

 「そういえば1年ほど前から、時折ぎゅうっとこう……しめつけられるような胸の痛みがありました」

 男性はあとでそう語った。だが、病院には行かなかった。国民健康保険の期限はずっと前に切れていたからだ。

 中学を卒業後、就職もままならず、アルバイトを転々としていたという彼。だが、年齢を重ねるうち、仕事の口は減っていった。やっと職にありついても、職場の仲間は学生ばかり。いつのまにか親子ほどの年の開きができていた。

 そのうち、雇ってくれるところはまったくなくなってしまった。求人サイトを隅から隅まで探しても、自分の年齢や条件に合う就職口は見つからない。

 暗澹たる気持ちになった彼は、仕事を探すのをあきらめ、親の年金収入をあてに暮らすことにした。とはいえ、生活はどん底状態に。親子で食べていくのが精いっぱいで、当然自分の社会保険料など支払えるわけはない。運の悪いことに、やがて父親が発病。寝たきり状態となってしまう。

 父親を介護施設に入れれば、年金はその費用に消える。在宅介護をすれば、自分の就職のチャンスはますます遠ざかる。彼は悩んだが、とりあえず生活していくは後者の道を選ぶよりなかった。 

 治療は受けたものの、病状は急速に悪化。結局、男性はそのまま病院で息を引き取った。入院して4ヵ月後。あまりにあっけなく、孤独な死だったという。