ジョンソン・エンド・ジョンソンなどのグローバル・エクセレント・カンパニーで社長職を歴任してきた新将命氏と、ハーバードMBAを取得後、ライフネット生命保険(株)副社長として活躍中の若き経営者・岩瀬大輔氏。ともに働き方の指南書を上梓したお2人が、「これからの10年を後悔しない働き方」をテーマに先ごろ行った対談の模様を3回にわたってお届けします。第1回は、これだけははずせない仕事の原理原則について語り合います。

ビジネスパーソンをむしばむ平成の“3H
「疲労感」「疲弊感」「閉塞感」

新 将命(あたらし・まさみ)
株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年3月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。近著『働き方の教科書』『経営の教科書』(ダイヤモンド社刊)、『リーダーの教科書』(武田ランダムハウスジャパン刊)は、現役経営者、若手リーダーの必読書となっている。

 近年、研修などでさまざまな企業を訪ねると、多くの人が「疲労感」「疲弊感」「閉塞感」という言葉を口にします。私はこれを“平成の3H”と呼んでいるのですが、最近のビジネスパーソンは疲れを感じている人が非常に多いんです。

 こうした方々からは、「仕事に行き詰まって悩んでいるけれど、相談できる人もいない」という声も耳にします。

 私が『働き方の教科書』を上梓したのは、自分のビジネス人生から得た経験をまとめることで、問題や悩みを抱える人に少しばかりの「知恵」と「元気」と「勇気」をつけられればと考えたからです。

岩瀬 私が『入社1年目の教科書』を書いたのは、ライフネット生命で新卒採用を行ったのがきっかけでした。新入社員に伝えたいことは何かと考えながら書店に行ってみたのですが、社会人のマナー術といったものばかりでこれという本が見つからず、「それなら自分で書けばいい」と思ったんです。

 実際に書いてみて思ったのは、「仕事の本質は入社1年目でも10年目でも同じだ」ということでした。たとえば、この本では仕事において大切な3つの原則を挙げているのですが、そのうちの1つは「頼まれたことは必ずやりきる」というものです。私は社会人1年目のとき、先輩から「仕事を頼む側からすると、優秀かどうかよりも頼んだことをやりきってくれるかどうかが大事だ」と言われました。

岩瀬 大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険株式会社代表取締役副社長。1976年埼玉県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。1998年卒業後、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て米国に留学。2006年ハーバード経営大学院(HBS)を日本人4人目のベイカー・スカラー(成績上位5%表彰)として修了。帰国してライフネット生命保険設立に参画。2009年より現職。2010年、世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」に選出。近著に『入社1年目の教科書』などがある。

 言われたことを必ずやりきるというのはそう難しくはないはずなのですが、たとえば「あの人と知り合いなら、今度紹介してよ」「資料を送っておいて」などと頼まれたとき、「わかりました」と口にしながら約束を守らない人は意外に多いんです。私のこれまでの社会人経験を振り返ると、「やる」と言いながらやらない人が8~9割というところでしょうか。

 しかし、これをやれるかどうかがビジネスパーソンの成長に決定的な差をもたらします。依頼する側にしてみれば、催促が必要な相手には仕事を頼みたくなくなりますが、頼んだことを自主的にやりきってくれる人には「次の仕事も頼もう」という気になるものでしょう。そして、仕事をたくさん頼まれることこそが成長の糧になるんです。

 あえて厳しいことを言うと、言われたことをきちんとやるというのは本当は当たり前の話ですよ。私自身は若いころから、上から頼まれた仕事には何らかの付加価値をつけることを努力目標にしていました。

 「10日でやれ」と言われたら9日で終え、「10の案を出せ」と言われたら11案出すんです。10日で10案出すのは“普通の人”ですが、岩瀬さんがおっしゃるとおり、その“普通の人”ですら一般には2割程度しかいません。ですから、「9日で11案」を出し続けられる人なら、周囲から認められ、頭角を現すものなんです。