井上部長は不安になり、知り合いの社労士に相談した。すると社労士から、

 「内容や程度にもよるし、様々な状況を勘案する必要はあるものの、被害者側が嫌がっていなかったというのは、通用しないと思った方がいい」

 とアドバイスされ、その根拠となる判例(最高裁平成27年2月26日第一小法廷判決)を見せてくれた。

「セクハラ被害者が明白な拒否の姿勢を示していなかった」と言っても、「被害者側が内心では不快感や嫌悪感を抱いていても、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に抗議をしたり、会社に申告したりすることを躊躇することは少なくない」

 まみこから話を振ってきたとしても、証拠があるわけでもないので、本当のところは分からない。井上部長は、まみこから直接事情を聞こうと電話やメールを入れたが、返事はなかった。その代わりに夫から電話があり、「話は自分がする。早急に宮本課長を処分しろ。妻の休職を延長しろ」との要求が突き付けられた。

困り果てた部長に
課長の妻から衝撃の告白

 一方的に宮本課長を処分するわけにもいかず、井上部長は困り果てた。こうして話し合いが膠着状態に入る中で、宮本課長の妻・ゆみから「お話があるのでそちらに伺ってもよろしいですか」と連絡があった。

 人事部にゆみと夫の宮本課長が現れると、ゆみは頭を下げて、話し始めた。

 「今回の件、夫がご迷惑をおかけして申し訳ございません。実は、夫と佐々木さんは数年前から不倫関係にありました」

 「不倫関係」の言葉に、井上部長は動揺を隠せなかった。

 「2~3年前から夫の様子がおかしいと思い、調べていました。夫は当初、『相手の誤解で、セクハラで処分されるかもしれない』と話していましたが、私が不倫関係について夫に証拠を見せたところ、観念して全て白状しました」

 井上部長はため息をつく。ゆみはさらに話を続けた。

 「半年前、夫は佐々木さんとの関係を解消しようと別れ話をしたところ、ショックを受けた佐々木さんは精神的に不安定になったそうです」

 (佐々木さんのメンタル不調の話は、不倫が原因だったとは……)と井上部長はようやく、このトラブルの本質が見えてきたような気がした。

 「私もはらわたが煮えくり返る思いですが、夫がしたことは、管理職として許されないことだと思います。こういった事情も勘案して、処分が下されるようであれば、それに従おうと話し合いました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」