ゆみは気丈に振る舞っていたが、最後は涙声で井上部長に謝罪した。その横で、宮本課長は黙ってうなだれている。井上部長は最後まで話を聞くと、

 「正直によく話してくれましたね。ありがとう。佐々木さんとは直接話してみるから」

 と、ゆみに優しく語りかけた。宮本課長は、最後まで黙ったまま、頭を下げると、ゆみの後について退出した。

 ゆみによると、「まみこの夫は不倫の事実は知らないであろう」とのことだった。井上部長は、まみこにメールを送った。

宮本課長との関係について、宮本課長の奥様から話があった。ご主人はセクハラについて、宮本課長の処分を求められているが、2人の関係や、どのような会話があったかについて詳細を聞かないと、処分することはできない。話し合いをしたいが、ご主人がこの事実を知らないのであれば、佐々木さんから直接話を聞かせてほしい。

 その後返信はなく、まみこの夫からの連絡もパッタリ途絶えた。

セクハラと
されないために

 休職が終わる数日前、まみこから突然井上部長にメールが送られてきた。

体調が悪く、復職が難しいので退職します。
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 井上部長は、このまま話し合いもできず、休職期間も切れることから、どうしたものかと頭を悩ませていたのが、あっけない幕切れを迎えたことに拍子抜けする思いだった。

 その後、風のうわさでは、まみこは夫と離婚し、実家に戻ったとのことだった。夫婦間でどのような話し合いがあったか分からないが、今回の件で、夫婦の問題がいろいろと表出したのかもしれない。

 一方、宮本課長は懲戒処分を受けなかったものの、地方への転勤を命じられた。ゆみは夫の転勤に伴い、R社を辞め転職して頑張っているとのことだった。

 職場での恋愛関係がもつれて、セクハラ問題となるケースは少なくない。ちょっとした火遊びのつもりが、とんでもない問題に発展していく可能性もある。

 今回のケースでは、まみこが本当に嫌がっていたかどうかは分からないが、「相手が嫌がっているとは知らなかった」と言って、セクハラ行為を認めない加害者も多い。しかし、被害者側が抗議をすることで、自分が不利な立場になったり、人間関係が悪化するのを恐れて我慢をするということは大いに考えられる。「相手は嫌がっていなかった」というのは、通用しない。少なくとも職場で、性的な会話や身体の接触は絶対に避けるべきである。

 相手の立場に立って、「本当は嫌でも立場的に言いにくいかもしれない」という想像力を働かせ、お互いに尊厳を持って接するようにしてほしいと思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。