がれきの広域処理に貢献する<br />セメントに立ちはだかる壁埼玉県にあるセメント工場では、住民数十人の立ち会いの下、放射線量を測定する公開試験が行われた

 東日本大震災で発生した大量のがれきをめぐり、県外で処理をする、いわゆる「広域処理」が動き始めた。

 岩手・宮城両県の約400万トンのがれき処理について、政府が全国の自治体に協力を要請。東京都や静岡県など、受け入れを表明する自治体も出始めている。

 そうした中、がれき処理の有効な手段として、セメントに期待が集まっている。

 以前からセメント業界では、一般ごみの焼却灰や工場から出る産業廃棄物など、多岐にわたるごみを原料や燃料としてリサイクルして使用してきた。石灰石以外の原料と燃料が代替可能となるからだ。

 しかもセメント製造は1400度もの高温で行いダイオキシンなど有害物質を発生させないため、安全かつ大量に処理する方法として重宝がられてきた。

 その量は年間約3000万トンと、日本のごみ総量の1割弱。また、大量に不法投棄された産廃や、BSE(牛海綿状脳症)発生時に問題となった肉骨粉の処理など、“ごみの駆け込み寺”として緊急時にも対応してきた経緯がある。

 そのため、がれきについても同様に業界を挙げて協力していく方針。すでに岩手県の太平洋セメント大船渡工場を筆頭に、被災地にある複数の工場で受け入れ処理を始めている。

 しかし、被災地以外の広域処理となると事情は異なり、いくつもの壁が立ちはだかる。

 まずは工場周辺住民の同意を得ることだ。

 受け入れを表明した自治体では、「被災地に力を貸そう」と前向きな声がある一方で、「放射能汚染や風評被害が心配」といった反対意見も寄せられているのが現実だ。

 そのため、3月25日には埼玉県の要請を受け、同県内の太平洋セメントと三菱マテリアルの工場でがれき処理の公開試験が行われた。

 各工場では地域の自治会などから数十人の住民が立ち会い、県の職員が放射線量を測定。基準値を下回り、ひとまずは成功した形だが、今後も住民に対して十分な情報公開と説明が必要となる。

 一方、セメント会社からすると、放射能汚染に加えてがれきに含まれる塩分もネックとなる。

 原料に塩分が多いと、製造設備に不具合が生じ、品質不良の原因となる。前述の大船渡工場では、塩分量が当初予想より2~3倍多いときもあり、その分、処理に手間をかけているという。当然、費用もかさむ。

 そもそもセメントに活用できる廃棄物の受け入れ余力は限られている。現在、セメント1トン当たり約470キログラムが上限で、受け入れを加速させるには、セメントの需要拡大が不可欠だ。

 こうした体制が整わなければ、せっかくの技術も宝の持ち腐れになりかねない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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