自動車の生産に例えれば
素材の取り換えに等しい

 これまで世界でも例のない特徴を持った新素材は、営業サイドの期待が大きかった。オンリーワンの商材として、すでに16年4月の市場投入もオンスケジュールになっていた。そんな中で、便鉢内の形状を調整し、水の流れをチューニングすることなしに世の中に出せば、苦情の大洪水となる。

 一方で、トイレなどの水回り製品は7万点以上の部材があることから、とても時間的な余裕はない。妥協案として、新製品から順番にアクアセラミック仕様にする方法もあったが、新素材が持つ可能性に惚れ込んでいた谷口は、事業部長を説得して「すでにあるものも含めて、7万点以上の部材を全て新素材仕様にする」と決断した。

 営業サイドの要請もあったとはいえ、技術者たちはかつてのプロガードでの苦い経験(撥水性を持たせたことで陶器本来の親水性を犠牲にしていた問題)があったことから、谷口の決断を支持する。その後は、工場サイドの人海戦術によって便鉢内の形状を変更したり、洗浄水を出す位置や排水口の形状などを微修正したりする突貫作業で、間に合わせたのだ。

 アクアセラミックは、自動車に例えれば、素材のベースを丸ごと刷新したようなものである。本格的に市場投入してからは、陶器製の水回り製品は全てアクアセラミック仕様に置き換わった。

 現在進行中のLIXILグループの中期経営計画では、21年3月期の連結売上高(売上収益)1兆7400億円、営業利益(事業利益)1300億円を掲げている。

 最大部門のLIXIL Water Technology(LWТ。水回り部門)は、売上高8300億円、営業利益1000億円を見込む。足元の状況は、アクアセラミック仕様の製品は住宅用トイレの分野で2桁成長を続ける(17年度)。

 昨年、LWТが実際にアクアセラミックを使用した人の満足度を調べたところ、「結果は93%の人が満足だったが、7%は不満があると答えていた」と谷口は気を引き締める。この7%の不満の解消が、彼の次なる挑戦となる。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

写真提供:LIXIL 榎戸工場

【開発メモ】もうひと手間の秘密
 衛生陶器は、技術の進歩によって製造プロセスは進化したが、基本的な製造方法に変化はない。天然素材である原料をこねて成型・乾燥させ、釉薬を塗ってから窯で焼くことで出来上がる。詳細は企業秘密だが、「ある段階で、もうひと手間を加える」(谷口)ことによって、新素材のアクアセラミックに変わる。左端の人物が、立役者となった奥村研究員。