年明け早々、ドル円相場と米金利の連動性が崩れた。今後のドル円相場では何を指針にできるのか。
2国間金利差が為替レート決定に関わることは経済理論からも説明できる。ドル円は、日本の金利が長年0%近傍のため、米金利だけで説明できる展開が多かった。ドル円は主に米好況下の金利上昇時に上向きやすいと認識される。
しかし、歴史的に両者の関係はそう単純ではない。最近10年は両者の密な相関が折々に観察されたが、その前の10年は逆相関の状態が頻繁に見られた。また最近10年も、ドル円は2006~12年(次図局面1)には米2年金利、16年11月~17年(同局面2)には10年金利と、連動相手を代えている。
実は、金利と為替の密な相関は自己実現の様相が濃い。多くの人が同じ期待や尺度に基づいて売買すると、その期待や尺度通りの相場が形成される。2000年前後数年のドル円は、ヘッジファンド等が金融危機下の日本の苦境を見て円を売り、情勢改善で円を買い戻したため、金利との関係はかく乱された。05~07年に米利上げに伴う日米金利差拡大で円キャリー取引が活発化すると、ドル円は金利で動くとのテーマが定着した。
その流れは米金融危機を経て12年まで続き、2年金利低下と円高の自己実現相場をもたらした(同局面1)。2年金利は1年先の景気や金融政策の期待を映すドル円の中期的指針とされた。
12年暮れ、ドル円はアベノミクス登場で、5年に及ぶ円高過程で蓄積された巨額の売り持ちが、米金利上昇を待たずに買い戻されて急反発。2年金利とドル円の相関は崩れ、自己実現型の投機筋はしばし姿を消した。
彼らは16年の米大統領選挙直後に復帰した。米新政権のリフレ策期待での長期金利急騰とドル円反発が同時に起こった。17年のドル円は、米2年金利ではなく、そのまま5~10年金利と自己実現的に連動し続けた(同局面2、次図)。
それも18年早々に一変する。17年秋の米金利上昇に伴うドル円ラリーが調整に転じたとき、米債券金利はインフレ懸念から上昇し続け、金利上昇を嫌った株安でドル円がもう一段下振れた。自己実現型の金利相場は再び姿を消した。
自己実現型の金利相場は、はやりモノのように変転する。ただし金利は為替相場の底流に影響する。今年米国でさらに3回の利上げが行われ、米短中期金利、おそらく2年金利の上昇に沿ったドル円支持は続こう。ただし米景気は終盤で、金利上昇が株価や新興国資産の脆弱化の火種にもなる。ドル円は中長期の上値追いを推奨できる段階になく、今年は100~110円を基本レンジと考える(本稿は筆者の個人的見解である)。
(グローバル・マクロ・ストラテジスト 田中泰輔)