
田中泰輔
参院選に持続的な相場インパクトはあるか。選挙公約にどれほどの実現可能性があるのか。その精査なくして、相場への含意は乏しい。そもそも日本市場においては、米国の金利次第で円相場が動き、その円相場と米国株次第で日本株が動く。その先導役はほぼ外国人であり、他力本願が大きい。参院選の結果が、トランプ大統領下の米国のマクロ事情を凌駕するほど、日本のマクロ情勢を変えられるとは想定しがたい。

トランプ関税の交渉期限、米経済指標の悪化の頃合いとなる7~9月期に米日市場のリスクオフ再燃を「転ばぬ先の杖」シナリオとして注視している。昨年8月初めにかけて、米国の経済指標の陰り、株安、金利低下が円高を招き、日本株をフラッシュクラッシュさせたイメージと重なる。再びこの展開になったとき、市場が十分に織り込めていない強烈な円高リスク要因として為替ヘッジ操作が挙げられる。

米株相場は、4月の米関税リスクオフから、順当に復調路に入った。5~6月は関税ディールと経済指標どっちつかずの2つの猶予期間で、復調地合いを保てるかもしれない。7~9月には指標悪化、関税ディールの不調がリスクオフを再燃させるリスクがある。ただし、ここでの景況・市況の悪化が厳しいほど、息の長い好相場トレンドを生む可能性がある。

ドルが下落している。その背景について、トランプ政権の無謀な政策がもたらす自業自得との指摘がある一方、トランプ政権が国内製造業復活のために「第二プラザ合意」でのドル安誘導を目指すとの見方もある。米株・債券・ドルの「トリプル安」が進み、とばっちりで円高・日本株安を不安視する国内では、「リーマン級危機」といった声も出ている。だが、不安に駆られて短絡的な言葉を独り歩きさせると、リスクの実相を見損ないかねない。

米国株が急落している割に、日本株の下落率は相対的に小さい。また、ドイツなど欧州株、中国株は上伸している。このことは、米株安は自律調整を多分に含み、世界にリスクオフを伝播させる状況ではないことを示唆する。しかし、底堅い日本株は上昇力も欠いている。その背景は何か、どうしたら上抜けられるのか、日本と日本株の活路を考える。

トランプ2.0は、国際ルールを無視するかの政策を突然とっぴにぶち上げ、ディール次第で朝令暮改も意に介さない。それは場当たり的に見える一方、最終目的に向かう迂回路を綿密に練っているとも推察される。米大統領の一言一句に直接的反応を見せていた市場は、朝令暮改によるハシゴ外しにも度々遭い、目線が定まらない。不確実性を嫌う株式相場の下値は脆弱化しつつある。投資家として、不安で不透明な場面の予測情報の偏りを踏まえ、シナリオ分岐多発リスクにどう臨むべきか。

日本銀行は、日本を普通に金利のある国へ復帰させるべく、着々と利上げを進めている。しかし、「日銀『が』」と、日銀が主体的に決めているという視座では、利上げの進捗を的確に捉えきれない事情がある。日本のデフレ克服機運、企業の改革・賃上げの好循環ムードは、「米国事情『が』」許す限りという他力本願の部分が今も小さくない。そこにトランプ2.0が重なる。外部条件と日銀政策の相場インパクトと投資対応を考える。

2025年を迎え、専門家が年間予想を競い合う。ところが、25年ほど専門家泣かせの年はない。米国の政治、経済、相場の先行きに目線の定めようがなく、強弱一方向に傾けた強い予想は掲げにくい。そうかといって、それが安穏な情勢判断を意味しないことは明らかだ。25年の「まさか」を4テーマから検討し、目線が定まらない事情を浮かび上がらせる。特定の見方に肩入れすべき状況ではなく、波乱に備える柔軟性こそが重要な1年と考える。

各国の政治が先鋭化している。専制主義国家の横暴ばかりではない。西側自由主義国でも、極端な政治信条を掲げる政党の躍進が目立つ。それが国内で、政治対立の構図を生み出すこともあれば、妙にまとまることもある。我々は今、どのような政治空間を進んでいるのか。それは市場にどのような影響を及ぼすのか。

米国では、先行き見通しを立てにくいマクロ情勢が続く中、FRB(米連邦準備制度理事会)は金融政策の運営を「データ次第」とする柔軟姿勢を取っている。しかし、年初に市場は今年の利下げを6回と織り込み、4月には景気しっかりで利上げも辞さずと見通し、8月には景気後退不安が浮上し、足元では景気堅調に逆戻りとデータの振れは激しく、FRBも市場も目線を節操なく変転させている。そもそもデータはなぜこんなに振れるのか、信頼に値するのか、投資家としてどう対処するべきか。

7~9月期の日経平均株価は、主要先進国の株式相場の中でも、突出した乱高下ぶりだった。それまでの日本株高を正当化する論調がグダグダになり、情報面でも混乱しやすい場面である。しかしこれは、米景気・金利が陰る局面に想定された順当な展開といえる。日本の投資家として、まだ続き得る波乱へ備え、活路を見いだす上で、自国株の変動メカニズムをきちんと理解しておきたい。

8月の米日株、ドル円の暴落は、米景気・金利サイクルの変わり目で生じがちな典型的現象である。株式相場の暴落は、金融相場から業績相場、業績相場から逆金融相場、逆金融相場から逆業績相場への節目ごとに、危険度が異なる。今般の暴落後の相場は、下値の不安定さを当面くすぶらせるとみている。投資家として、何をチェックし、どう構えるか。

8月に入り、急な円高が日本株を過去最大幅で下落させ、世界をリスクオフ警戒でおののかせた。しかし背景は、米国株相場を牽引(けんいん)してきた生成AI・半導体株の自律反落、米景気悪化観測が招いた米金利の先安観がある。円相場も日本株も米国次第の他律的変動が主である。しかし日本では、国内株高は日本礼賛論、円安は日本憂国論がまかり通る。米景気・金利の変わり目というキナ臭い局面に見るべき相場シグナルを明らかにする。

超円安の持続がなかったら、日本は、20年、30年もあえいだデフレの克服へ進めただろうか。アベノミクスの異次元の金融緩和というとっぴな自助努力でも苦境を脱し切れなかった日本。しかし、コロナ禍という突然の災難が、海外のインフレ・高金利を招き、恵みの円安をもたらしている。この円安トレンドに変曲点が近づく今、円安への不安性に浸るより、この円安に乗じて、日本の正常化をしたたかに考えたい。

2024年は生成AI導入「元年」と位置付けている。エヌビディアの独り勝ちばかりが目立った生成AI相場は、23年の「胎動」、24年の「試行錯誤」の暴走を経た。足元では、高成長分野ゆえの裾野が広がり、ニッチな領域の勝機も評価できるようになり、「元年」の第2幕に入ろうとしている。「人生でめったに出会えない」相場を享受したい。

今年1~4月を通じて、米景気は依然強く、インフレは高止まり、利下げどころか利上げも排除されないという見方が強まった。しかし5月にわかに、景気指標は予想を下回るものが相次ぎ、年内利下げ予想も1~2回まで戻されている。コロナ禍以降、景況感は数カ月ごとに強弱変転してきた。今回の“減速”という景況感は正しいのか、そのシナリオ分岐は相場にどう影響するのか。

イスラエルとイランの空爆の応酬に、市場では緊張が走った。この時の為替市場の一次反応は、有事に強い通貨の変遷史を想起させた。かつて地政学リスクや経済危機に強いとされた円は様相を変えつつある。「有事のドル」は復活してきた。ただし、そこにユーロ、スイス・フラン、さらに中国元や金が絡む。強い通貨を巡る歴史から、円と日本の実情を読む。

FRBはこの半年、金融政策の判断はデータ次第と言いながら、不自然に上下振れるデータに翻弄されて、節操なくタカになったりハトになったり。しかしその時々の指標の強弱に沿った反応ではあった。その点で、3月FOMCのタカ派寄りの結果とパウエル議長のハト派姿勢の会見の組み合わせは一見奇妙だった。議長の意図を推察すると、4~6月、そして24年後半の金融政策と相場の巡り合わせについてのイメージが浮かび上がる。

日経平均株価が1989年末に付けた最高値をようやく更新した。ついに実現とお祭り機運もあれば、足元の相場をバブルではないかという疑問も聞こえる。しかし、34年前の株価更新には象徴的な意味しか見いだせない。重要なことは、今の株価を形成している内実を適切に認識することである。通過点にすぎない「たかが高値」の裏に、今後の日本、そして投資の指針になる「されど高値」の実態が浮かび上がる。

2024年1月には、日米株がそろって急上昇した。速すぎる相場にはおのずと反落の力学も生まれる。しかし日米とも、この株価急騰が上昇相場のトレンドを進む狼煙(のろし)と考える理由がある。そして、日米株高を支えるマクロ環境として、米国の景気堅調、インフレ鈍化、ほどほど低めの金利水準が保たれるか否かの分水嶺では、円相場が明快なシグナルになろう。
