キャッシュに変化
「CCC」重視も投資資金がかさむ

 売上高と営業利益の目標にまい進する永守会長だが、実は、創業間もないころに資金繰りで苦しんだ経験から、「財務の基本は利益よりキャッシュ」という哲学を持つ。

「勘定合って銭足らず」を避けるために注視しているのが、原材料費を払ってから製品代金を回収するまでの期間を示す「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」だ。「資金回収は早く、支払いは遅く」を徹底し、CCCを短縮することで手元資金に余裕を持たせる。15年度に66日だったCCCは、海外企業の買収で一時的に長期化しているが、20年度までには60日にしたい考えだ。

 資金効率化の取り組みで、稼ぐ力を表す営業キャッシュフロー(CF)は年間1000億円を安定的に超えてきた(図(3))。ただ、同時に増えているのが、設備投資やM&Aに支出する投資CF。1200億円で米エマソンの一部事業を買収した16年度は、営業CFと投資CFを足したフリーキャッシュフローがマイナスで、投資先行の方針がキャッシュの動きにも表れた。

 手元のキャッシュを表す現預金は3000億円規模まで積み上がったが、それ以上に有利子負債も増えている。16~17年度には1650億円の社債を発行しており、手元資金から有利子負債を引いたネットキャッシュはマイナスの「借金超過」が続く。

 その中で、永守会長が重視しているのが自己資本比率だ。14年度に転換社債の株式転換が進んだことから25年ぶりに50%を超えたが、この水準を一つの目安にする。

 会社が小さなころは「借金してでも投資して大きくなる」との意識が強く、自己資本比率はそれほど気にしていなかったが、売上高が2兆円に迫る中で重要性が増してきた。M&Aや設備投資を仕掛けるには、金融機関からの借り入れに頼らざるを得ない。借金ばかりを増やして自己資本比率が低下してしまうと、格付け低下を招き、借入金利が上昇してしまう恐れがある。今後は、最終利益の積み上げによる自己資本の拡充とM&Aで膨らむ借金の絶妙なコントロールが求められそうだ。

 日本電産の創業以来のM&Aは58件に上る。かつては数十億円から数百億円の小規模な買収をコツコツと積み上げることが多かったが、ここ最近のM&Aは大型化している。16年度に過去最大のエマソン事業の買収を手掛けたのに続き、来年買収完了予定のブラジルのエンブラコも1000億円を超える過去2番目の大型買収になる見込みだ(図(4))。

 永守会長は、20年度の売上高2兆円に続き30年度には10兆円という大きな目標を掲げており、今後も大型のM&Aや大規模な設備投資を決断する場面が増えそうだ。そのときに備え、機動的で大規模な資金調達を可能にする健全な財務戦略がより重要になるだろう。