大量飲酒に認知症リスクが

 世界保健機関(WHO)が公表している「国際疾病分類(ICD)」の現行版ICD-10では、飲酒に関わる問題を「有害な使用」と「アルコール依存症」に大別している。

「有害な使用」に相当するのは、精神的、身体的な健康が実際に損なわれているケース。社会通念に反し、社会生活や家族関係の破綻、あるいは逮捕されるような状況だけでは、アルコールに関係した問題とは診断されない。

 一方、「アルコール依存症」は、12カ月の間に、次の6項目のうち3項目が同時に起きた、あるいはくり返された場合を指す。

 (1)飲酒したいという強烈な欲求、強迫観。

 (2)飲酒の開始、終了、量をコントロールできない(抑制喪失)。

 (3)減酒、あるいは禁酒時に寝汗、手の震え、イライラ感などが生じる(離脱症状)。

 (4)大量に飲まないと酔えない(耐性の存在)。

 (5)酔いから醒めるのに1日の大半を使う、飲酒以外の娯楽を無視する(飲酒中心の生活)。

 (6)有害だとわかっているのに、飲酒をやめられない。

 特に(2)の抑制喪失と(3)の離脱症状がポイントで、(2)(3)が併存している場合、体内のアルコール濃度を一定レベル以上に維持しようとするため、一定量のアルコールを数時間おきに飲み続ける典型的な「連続飲酒」におちいる。

 大量飲酒の害は明らかだ。110万人以上の認知症患者のデータを解析したフランスの報告では、アルコール依存症、プレ依存状態(乱用)の場合、認知症発症リスクが男性で3.36倍、女性で3.34倍に上昇することが示された。

 しかも、65歳未満で発症する「若年性認知症」患者の実に57%がアルコール依存症または乱用状態だったのだ。

「健康に良い」とされる適度な飲酒でも週に14~21単位(ビール350ミリリットル缶8~12本)の適量で、1単位未満(同135ミリリットル缶1本半ほど)/週の人より、認知機能を司る脳の萎縮リスクが3.4倍になることが知られている。

 あの一杯を諦めるのは難しいが、やめどきは決めた方がいい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)