全米で話題沸騰中の21の睡眠メソッドを集約した、『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』。本連載では同書の中心的なメソッドを紹介していきます。食事、ベッド、寝る姿勢、パジャマ――。どんな疲れも超回復し、脳のパフォーマンスを最大化する「睡眠の技術」に注目です!

アルコールはレム睡眠を阻害する

アルコールを夜に飲むと寝つきが早くなることは、研究で実証されている。これはいい話だが、残念ながら、アルコールはレム睡眠を大きく阻害することも明らかになっている。

眠っているあいだ、人は実際に賢くなっているということをご存じだろうか? 睡眠には貴重な役割がたくさんあるが、「記憶の整理」と呼ばれる働きの凄さにスポットがあてられることはあまりない。これは、時間の経過とともに忘れてしまう「短期記憶」や経験を、一度入ったら消えることのない長期記憶に変える働きを意味する。

記憶の整理は、睡眠中に複数回訪れるレム睡眠の影響を強く受ける。レム睡眠を十分にとれていればいいが、そこに邪魔が入ると、記憶と健康が被害を被ることになる。アルコールを飲んでしまうと、レム睡眠の段階に入り込むことも、レム睡眠の周期が安定して訪ることもなくなるので、脳と身体の完全な回復は見込めない。だから、アルコールが残った状態で眠った翌朝は、目覚めても気分がすっきりしない。

ミズーリ大学の調査によると、アルコールが睡眠を阻害するのは疲労と覚醒のバランスが狂うからだという。このバランスのことを「睡眠恒常性(ホメオスタシス)」と呼ぶ。

恒常性とは基本的に、体内の安定性を維持する能力のことを指す。睡眠不足になると、簡単には返せない「睡眠負債」ができる。この借金を返して睡眠を得られる身体にするにはどうすればいいのか。そのカギを握るのは、アデノシンだ。

アデノシンが増えると眠りにつきやすくなるが、アデノシンによく似たカフェインにはせっかく生まれかけた眠気を遮断する力がある。だから、カフェインをとると眠くなってもそうと自覚できない。アデノシンはアルコールの作用にも大きく関係していて、眠気を催させたり、身体の動きを鈍くさせたりする。調査によると、脳内のアデノシンに変化の兆しがあるときは、アルコール依存と睡眠障害の両方が関係するという。

アルコールには、アデノシンの細胞外濃度を高める働きがある。その結果、眠気を催し、眠いと自覚するのだ(アルコールの量によってはみだらな気持ちになり、その自覚も生まれる)。

アルコールによってアデノシンの力が不自然に高まると、睡眠恒常性が狂い、身体はそれを元に戻そうと必死になる。図を見てわかるように、寝る間際に飲酒すると、眠り始めた最初の段階で通常のレム睡眠よりはるかに深い眠りとなり、その後通常のレム睡眠よりさらに眠りの浅い「リバウンド効果によるレム睡眠」がやってくるので、身体はそうした異常事態を何とか収めようとする。そういう眠りしか得られなければ、目覚めたときにはきっと、片割れをなくした靴下のような気分になる。それも、古くて臭くて、趣味の悪い色の靴下だ。眠ったことは眠ったが、良質な睡眠をとるのと、酔っ払って気を失って寝るのとではずいぶん違う。

酒を飲んで眠るとアルツハイマーになる?

酔っ払って寝る行為を当たり前に続けていると、深刻な問題が生じることがある。ミズーリ州セントルイスにある私立ワシントン大学の研究チームが睡眠サイクルの乱れている人を対象に調査したところ、正常なサイクルで眠っている人に比べてアルツハイマー病に関係する兆候が多く現れることが明らかになった。これもまた、睡眠の量より質を重んじるべき理由の一つだ。睡眠の質を下げることや、脳の機能を損なうことは、絶対に避けたほうがいい。

睡眠を完璧にしたいと思っているなら、禁酒する時間帯を決めて、寝る数時間前には確実にアルコールが身体から抜けるようにしよう。そうすれば、友人や家族と過ごす時間がますます充実したものとなる。また、お酒を飲むときは水をたくさん飲むとよい。アルコールがあっというまに血液中に吸収されるのは、アルコールが液体だからでもある。アルコールの影響を早めに消したいなら、水をたくさん飲んでアルコールの代謝で生じた老廃物の残りを洗い流せばいい。