電通は、就職先として依然人気の大企業。2016年末の新入社員の過労自殺事件で批判の対象になったが、そこでやり玉にあげられたのが企業体質を象徴する「鬼十則」。しかし、「鬼十則」は古い価値観だからダメなのではない。自己実現欲求をかなえるハウツーだから問題なのだ。その違いにこそ、新時代の再編を生き抜くヒントがある。グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!(初出:2018年6月19日)
「いかに自分たちが勝つか」は敗者の道へと通じる
総合商社と同様に、学生の就職先として人気を集める企業に広告会社がある。なかでも業界ナンバーワンの電通は、1960年代後半から70年代にかけて、人気企業トップ10を飾るようになってからは、総合商社同様にランキングの常連である。
そんな電通も2016年末の新入社員の過労自殺事件を受け、労働基準法違反により起訴、2017年10月に有罪判決を下された。その過程において、常態的になっていた長時間労働に加え、企業としての体質も批判の対象となった。
その企業体質を象徴するものとして槍玉に挙げられたのが「鬼十則」である。「鬼十則」は電通の「中興の祖」とも呼ばれる第4代社長・吉田秀雄氏が1951年に作った電通社員の「行動規範」とも言うべきもので、事件当時、電通の社員手帳Dennoteにも記載されていた(※注)。
※注:電通は2016年12月9日、従業員の行動規範とされてきた「鬼十則」について、2017年度から従業員向け手帳への掲載をやめると発表した(「電通、有休取得50%以上目標に『鬼十則』に別れ」日本経済新聞2016年12月9日)。
電通社員としての仕事への取り組み姿勢として「自ら創るべきで、与えられるべきでない」「周囲を引きずり回せ」などと説いたものだが、なかには「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」と過激な表現の項目もあり、このような表現は時代錯誤であり過重労働を是とする社風につながっているとの批判に晒された。
当然、これを擁護する論調も極めて多い。例えば、「これは表現が、今の時代には過激なだけであり、ここで唱えていることは普遍的な価値意識であり、ビジネスで“勝つ”ためには重要な金言であり、優れた理念である」といったような論調である。
ここで「鬼十則」に書かれた一語一句の是非について論評するつもりはない。ただ、少なくともそこには、長時間労働の賛美や、プライベート軽視の姿勢は見られない。擁護する人たちが指摘するように、ビジネスで勝っていくための姿勢としては普遍的な内容のように感じる。
しかし、それでも私は「鬼十則」はゴミ箱の中に捨てるべきものだと考える。